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□天の邪鬼
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「ねぇ、今日一緒に帰れる?」

隣に座っている名無しさんに話しかける。
付き合ってもう半年絶つのに、手も繋いだことないし、キスだってしたことない。

「うん」

それだけ言い残して下駄箱へ向かったようだった。
彼女は僕のこと好きなのか不安になる。
たまに見せる仕草で、僕のことが好きだと期待をしてしまうが、こんな感じだと塵が風に容易く飛ばされるのと同じように簡単に吹き飛ばされてしまう。

小さくため息をつき君のもとに向かう。

「寒くなってきたね」

名無しさんの顔を覗きながら聞けば、少し顔を染めて

「別に」

「今度デートしようよ」

突然発した僕の言葉に驚いたらしく、目を丸くする。

「い、いいけど……」

目を反らして困ったような顔をする。
会話はそこで途切れ、沈黙が僕らを包み込む。

もう、半年も付き合っているのだから、普通のカップルは話が途切れないだろう。
でも、僕たちは違うみたい。

あっという間に君の家の前に着いた。

「じゃあ……」

そう言って家の中に入ろうとするところを、名無しさんの手首を掴む。
そして僕の胸の中に君を、後ろから包み込むような形で閉じこめた。

ドロドロした感情がコントロールできない。
背中には冷や汗が伝い、口の中が乾く。

「ごめん、嫌だったよね。離れる」

腕を離そうとすると、僕の腕の中で回り頭を僕の胸に置き、腕を背中に回し抱き締めてきた。

「嫌じゃない」

いきなりのことで戸惑う。
ゆっくり名無しさんの背中に腕を回し、嬉しくなって耳元で一言

「僕のこと好き?」

「きらい!」

僕の胸に顔を埋める。
けど僕は知ってしまった。
耳が赤く染まっていたことを。

「天の邪鬼」

笑いながら言えば、ほっぺを思いっきりつねられる。

「好きでしょ?」

ほっぺをつねった方の手を掴み、顔を近づけてもう一度問う。

「好き?」

「…………うん」

顔も赤く染め上げ目を反らす。
君の癖を見つけた。

「恥ずかしいと目を反らすんだね」

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