ファンタビ
□貸し借り
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※web clapの続きです
ふぅ、とため息をつく。
「ありがとうございます。助かりました……」
感謝の気持ちを込めて、グレイブスさんに笑顔を向ければ
「大丈夫だ。いい暇潰しになったよ」
と、微笑んでくれた。
「さて、約束の件だが……、今夜はどうだ?」
「今夜……ですか?」
今夜といういきなりの提案に戸惑えば、眉を下げて
「急すぎたか」
「ご、ごめんなさい。グレイブスさんとご飯を食べるなら、お化粧したり、もっとちゃんとした洋服着たいなぁって思って……。明日のお昼はどうですか……?」
上司のお誘いを断るのに申し訳なさを感じながら提案すれば、優しく壊れ物でも扱うような手つきで私を撫でてくれた。
「レディは大変だな。分かった、明日のお昼に行こう」
撫でてる手を下に降ろし、今度は頬に手を添え、親指の腹で頬を撫でてくれる。角張った指はどこか安心したが恥ずかしさと、くすぐったさが入り交じり、目線を反らせば、静かに笑い、静かに手を離した。
「では、また明日。楽しみにしているよ」
後ろを向きながら手を振り去っていく姿を、見ながらグレイブスさんが触れた場所を触る。
触られた場所が熱い。頬から体全体に広がったの熱を冷まそうと、外にでる。
日は暮れ、月が見えて辺りは暗くなっているが人はまだ町を歩いていた。上がりそうな口角をなんとか下げ、人混みの中に溶け込んだ。
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「おはようございます」
同僚、上司に挨拶しながら自分の席につけば、肩を叩かれる。
「おはよう。First name」
グレイブスさんが静かに笑いかけてくれる。
「あ、おはようございます」
いきなりのことで戸惑いながら、挨拶をすれば小さな紙切れを私に渡し、どこかへと去っていった。
なんだろうと、その紙切れに目を通せば、小学校のお手本のような美しい字で"待ち合わせは、マクーザをでてすぐの街灯にしよう。12時頃に待っているよ。"と、書いてある。
なんともいえないいとおしさが込み上げ、微笑みながらポケットにそっと大事に入れた。
今日は頑張ろうという気持ちになるのは、昨日のせいでもあるし、今のグレイブスさんのお陰かもしれない。どこか甘いお菓子を食べたような幸福感に包まれていた。
もう見飽きた時計を見れば、待ち合わせ時間の十五分前。辺りを見渡せば皆お昼ご飯を食べていたり、お昼ご飯を食べに行ったようだった。
ウキウキする気持ちを抑え込ながら、トイレに向かい自分の身だしなみを確認する。直すところがなくなれば、もう一度自分の席に行きバッグを持ち、例の待ち合わせの場所へと向かう。
マクーザをでてすぐの街灯に向かえば、もうそこにはグレイブスの姿があった。私の姿に気づいたようで、こちらによってくる。
「さぁ、行こうか」
グレイブスさんが歩き始めたので、ついていけば路地裏にたどり着く。不思議に思い、名前を呼んでみれば手を掴まれた。驚きグレイブスさんの方を見ようとしたが、そこは先程の路地裏ではない路地裏だった。
「こっちだ」
掴まれた手はいつの間にか、恋人つなぎになっていて恥ずかしく、もう一度名前を呼ぼうかと思ったが、つないでいたいという欲求に勝てず、この状況を恥ずかしながらも楽しんでいた。
「ここだ」
声をかけられ見上げれば、なんとも高そうなお店が目の前にあり、お金足りるかな、と生唾を飲み込む。