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□鼻にキス
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「素敵なところですね、ここ」
島崎さんに誘われ、一緒にきたカフェの感想をいう。
「そうですか?喜んでくれたなら、嬉しくです」
くすり、と笑う島崎さん。
私もつられて、はにかむ。
「お待たせ致しました」
島崎さんが頼んだコーヒーと、私が頼んだケーキがやってきた。
ごゆっくりと、帰り際に店員がいいながら、島崎さんを色っぽい目で、チラリと見ていた。
その光景に、ちくりと、針で心を刺された感覚がし、名前が分からない、何か黒い感情が私の心の中を渦巻いていた。
「さ、食べましょう」
島崎さんはニコニコしながら、ケーキを食べるように促す。
「美味しいですか?」
「はい、とっても!」
「私も、一口いただいてもいいですか?」
そういうと、島崎さんは口を開ける。
その様子に戸惑うと、
「私は目が見えないので、名無しさんに食べさせてもらいたいです」
ニコニコと胡散臭い笑顔でいう。
目が見えない、とはいえ島崎さんは生活に支障がでない程度生活できる。
「島崎さん、あーんって、してもらいたいだけでしょ」
「おや、私には聴こえません」
「もー、はい口開けてください」
そういい、フォークで刺したケーキを島崎さんの口に運ぶ。
口の中にケーキを入れると、もぐもぐと美味しそうに食べる。
そして、またニコニコと胡散臭い笑顔で私の顔を見る。
「さっきの店員さん、島崎さんのことすごく見てましたよ。気があるんですよ。きっと」
段々自信がなくなり、語尾が小さくなる。
「おや、嫉妬してくれてるんですか?嬉しいですね。ですが、私は」
そういうと私の耳元に顔に近づき、
「あなたしか、興味ありませんよ」
と、赤子をあやすような優しい口調で囁く。
そして、子ども扱いするように、ちょん
と鼻に落とされた口づけ。
「子ども扱いしてます??」
「おや、失礼」
というと、今度は優しく口に口づける。
ガヤガヤとうるさい店内から、どこかかけ離れた空間に二人しかいない、そんな感覚に陥る。
「今度は映画にいきたいですねぇ」
そんな呑気ことをいってる、島崎さんについ笑ってしまった。