【雨のち曇り、また雨】

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「・・・埼玉県から来ました、島崎遥香です」


彼女が転校してきたのは
7月の真夏日、夏休み前のとある日。

挨拶をして軽く会釈したその人の
第一印象は【無表情】であった。

眉を八の字に下げ
ピクリとも笑わない
そんな彼女についたあだ名は【塩】で。

偶然、隣の席になった私は
もしかしたら既にその時から
何処か興味を引かれていたのかもしれない。


「うち、横山由依。
 何か困ったことあったら言ってな」

「・・・どうも」


HRが終わり私の隣には彼女を囲むように
クラスメイトたちが集まっていた。

転校生の珍しさに皆興味津々やった。

それでも彼女は無言のままで
そんな態度にクラスメイトたちも
次第に申し訳なさそうに
その場を去っていった。


「ぱるる」

「・・・?」

「あ、あだ名や。
 勝手につけてもうたんやけど嫌か?」


ぱるるは首を横に振る。
これは大丈夫ということなのか。


「・・・じゃあぱるるって呼ぶな?」

「・・・私は」

「ん?」

「・・・私は、何て呼んだらいいの?」


はじめて彼女から話しかけてくれた。
少し嬉しくなった私は
「由依でええで」と答える。


「由依・・・?」

「何で疑問系なんや」

「・・・わかんない」


白く綺麗な肌が太陽の光に照らされる。


「・・・ぱるるって、綺麗やなぁ」

「え」

「・・・ん?・・・あ!ごめん!つい!」

「・・・ううん、ありがとう」


話したのはたった数分のことやった。
せやけど、少しだけ仲良くなれた気がする。

それは由依にとって大きな進歩だった。

授業が始まってからもずっと
由依は遥香のことを考えていた。

あれだけ綺麗な顔してるんなら
きっと、笑ったら
もっとええと思うんやけどなぁ。

ノートの端に由依は小さな文字で



【ぱるるに笑って欲しい】



そう書いた。
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