Dream Castle
□雪景色の中で□ピュア
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3ヶ月前ーーーー
every.の取材で地方に来ていた俺は急ぎ足でスタッフと共にテレビ局に向かっていた。
「小山さん、走らせてすいません!」
「仕方ないよ!飛行機遅れたんだもん!そんなことより転ばないでね!」
「あ、はい!小山さんも…」
「うあ!!!」
ドン…っ
「きゃ…!」
他人の心配をしていたら氷の上の雪に足を取られて転んだ拍子に伸びた足が1人の女性にぶつかって、女性も態勢を崩して持っていた荷物を手放し地面に座り込んでしまった。
「あたた…。す、すいません!!大丈夫ですか?!」
「…っ、は、はい!えっと…あ、あの…びっくりしました…!」
そう言って少し混乱しながらも胸をなでおろして微笑む女性に目を奪われてしまった。
ーーー多分、これが一目惚れってやつだ。
俺は急いで立ち上がって彼女の落とした荷物を持ち上げて、手を差し伸べた。
「ほんとにごめんなさい!」
「あ、ありがとうございます…!」
彼女も応えて手を握り、お礼を言いながら俺の腕に頼るように立ち上がりコートについた雪を祓ってから荷物を受け取った。
「コート、汚れちゃいましたね」
「あ、いいんです!小山さん!早く中に入ってください!」
「え、なんで俺の名前…」
「あたし、この局のスタッフでスタイリストしています。神楽と申します!」
「あ…神楽さん、よろしくお願いします!」
「偶然ですね。今日は小山さんのヘアメイク担当させていただくことになっていたんです!こんなところでご挨拶することになってしまって申し訳ありません…」
俺は心の中でガッツポーズをしてしまったが、彼女の礼儀正しい仕草を見て自分もつられて背筋が伸びた。
「そうだったんですね!僕の方こそきちんと前を見ていなくて…!こんな素敵な女性が見えなかったなんて…」
「え…?///」
「あ!///じゃなくて、その…」
「ふふふ…!笑」
「や、すいません!なんか、頭打ったかな…///」
「さあ、寒いですから!中へどうぞ!」
余裕そうな表情の彼女の目の前にしどろもどろな自分が情けなくて恥ずかしくて彼女に案内されるがまま後ろをついていった。
その後ろ姿は正しく威風堂々なベテランスタイリストという感じだった。
俺はひとつ気になってevery.のスタッフに小さな声で尋ねてみた。
「ねぇね、彼女…何歳かな?」
「神楽さんですか?26歳です。彼女はこの局では結構重宝されてる人材ですよ。」
「そんな気がする…」
「でもスタイリストの中ではまだベテランさんがいるので、かなり嫌がらせを受けていた…なんて話を神楽さんが担当された業界人が話していました。」
「そうなんだ…」
そんなことを一切感じさせない彼女の歩く後ろ姿を見て胸がチクっと傷んだ。
「小山さん、こちらです。」
見つめていた後ろ姿がいきなりくるっと俺を方を向いて驚きのあまり目を逸らしてしまった。
「小山さん…?」
「あ、あの、ありがとうございます!」
楽屋に入ると俺はソファーにバッグを下ろした。
彼女をチラッと見ると先程落とした拍子についた雪が溶けて少し濡れているカバンを広げて手際よく鏡の前に並べていた。
すると彼女は俺に近づいた。
「小山さん、まず着替えましょうか。ヘアメイクはその後です。」
そう言いながらいつの間にか彼女は俺の後ろに回って少し背伸びをして上着に手をかけ自然な手つきで脱がせてくれた。
「あ、はい…」
「お着替え終わりましたら呼んでください。外で待ってますね!」
彼女は常に優しい笑顔で接してくれる。先程の話は嘘のように余裕に仕事をこなしているようだった。
彼女が外へ出て行こうとした時…
「あの…神楽さん…っ」
なんの計画もなく呼び止めてしまった。
ただ、なんとなく彼女が離れて行くのが嫌で…
不思議そうな顔で俺を見つめる彼女。
それでも優しい笑顔は保ったままで…
「あ…あの!俺、俺は…味方ですから。」
「え…」
「あ、いや!」
「小山さ…」
「あ!ごめん!忘れて忘れて!ちょっと、台詞の練習させてもらったんだ!笑」
無理な言い訳と笑顔で俺は必死にその場を逃れようとした。
彼女もまた騙されたように笑って外に出ていった。
「初対面の人に何言ってんだ俺…。今は舞台もドラマも出てないっつーの。」
寒かったはずの身体が少し汗ばんで張り付いていた服を脱ぎ、スーツに着替えた。