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□ゆく、来る、年
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―――阿部視点―――
「タカー!年越そば食べるから降りといでー!」
お袋の呼ぶ声に、部屋で雑誌を見ながらウトウトしていた俺は、ハッと目を覚ました。
それと同時に、メールの着信音が鳴り響く。
只今の時刻は12時30分前。
まだ辛うじて2007年だ。
こんな中途半端な時間に一体誰だよ。
ピッ
見ると、メールは田島からだった。
「そろそろ明けます!おめでとう!」
そろそろ明けますって…アイツ完全に確信犯じゃねぇか。
年も明け切らない内に何やってんだ。
ケータイを操作しながら、年越そばを食べるために階下に向かってトントンと階段を降りてゆく。
「タカ、そっち運んで」
「うーい」
お袋に言われて家族全員分のそばを食卓に運ぶ。
弟の方をチラリと見ると、食い入るようにしてテレビのK-1に見入っていた。
あ!やっべ。うたた寝してて、ヒョードルvsチェホンマンの試合見逃した!
KIDの試合も気になってたのになぁ…。
「なぁシュン。ヒョードルとチェホンマンどっち勝った?」
「んー?ヒョードル〜」
聞いてみると、弟の気のない返事が返ってきた。
「ほらほらシュン。タカもそば食べるよ」
そう言われて、丁度風呂から上がってきた親父も一緒に俺達は食卓についた。
「いただきます」
俺は季節ごとの行事は結構どうでもいいんだけど、やっぱ親がそういうのは気にするから、一応従う。
そばには、先日親戚からもらった餅が入っていた。
つかれてからまだ数日しか経っていない餅は柔らかくて美味い。そばにベタベタくっつくので多少食べにくいが。
熱いそばと餅を頬張りながら、俺の頭に浮かんできたのは、何故か三橋の顔。
三橋も野球部のヤツらも、今頃年越そばとか食ってんのかな。
三橋のヤツ、年末のご馳走食い過ぎて腹壊したりしてねぇだろうな?
てゆうかまさか今頃餅喉に詰まらせたりしてねぇよな…?
そんなことを考えていると、居間の鳩時計が鳴き出した。
「お。年が明けたな。明けましておめでとう。今年もよろしく。」
親父がまず最初にそう言って俺らの顔を見回し、俺らも明けましておめでとう、とお互いに言い合った。
その時またメールの着信音が鳴り、見てみると沖からのメールだった。
俺は来た分しか返さなくていいやと思っていたが、ふと三橋のことが気になり、そばの器を台所に運ぶと、自室への階段を登りながら電話を慣らした。
トゥルルルル…