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□君空
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「さ〜みいな〜」

浜田はそう言って、両手をこすり合わせながら空を見上げる。

やるなら、今だ。

先程からスポーツバッグから所在なく出したり入れたりしていた手に、ようやくソレを握って取り出す。

「…あのさ」
「うん?どした?」

くるりとこちらを向いた浜田の顔に、ぐしゃりとその袋を押し付ける。

「ぶっ!!」

いきなりの顔への衝撃で、浜田が足を止めてのけ反る。

「…った〜!なんなんだよいきなり!!」

浜田は思わず顔に押し付けられた袋を掴み、痛そうに顔をしかめて鼻をさすっている。
浜田が反射で袋を受け取ったのを見て、俺はひょいっと腕を引っ込めた。

「ソレやる」
「えっ?」

キョトンとした顔をして、俺の顔と押し付けられた袋を交互に見詰める浜田。

俺はなんだか恥ずかしくなって、マフラーに顔を埋めながらモゴモゴと言った。
顔が火照って熱い。

「だからやるって!お前今日誕生日だろ?!」
「え、ええっ?!マジで?!」

浜田は思いっ切り、そう言えばそうだった!という顔をした。

「なんだよ!忘れてたのかよ?!オメーの誕生日だろーが!!」
「いやぁ。最近バイトが忙しくってさぁ」

いやははは!と浜田は頭を掻きながら笑った。
俺はガクッと脱力する。

「でもさ、泉俺の誕生日なんてよく覚えてたな〜!すげぇな!ありがとうな!」
「お、おう」

そう言って俺の頭をナデナデと撫でる浜田の満開の笑顔の背後に明るい月が見えて、俺は思わず目を細めた。

「なぁなぁ、これ開けてい?開けてい?」

うきうきとそう言いながら、手ではもうすでにガサゴソと袋のリボンを解いている。

「いいぞ…ってお前もう開けてんじゃねーか」
「うぁ〜っ!手袋!手袋だぁっ!」

浜田は両手に手袋を握り、バッと空にかざした。
ひゃっほ〜いとジャンプし、両の頬に手袋を押し付けてくるくると回った。

いやいや喜び過ぎだろ…。

俺は呆気に取られて、ぐるぐる回る浜田をその場に突っ立って見ていた。
ひとしきり回ったあと、浜田はいそいそと手袋を両手にはめまじめた。

「うわぁ〜。あったけぇ!泉、マジありがとうなぁ。大事にするよ」
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