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□霧中夢中U
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高校一年生の俺の日々は、バイトに明け暮れる内にあっという間に過ぎていった。

バイトが忙しいのもあったが、野球のない西浦を選んだことが後ろめたくもあって、泉とはもう連絡を取っていない。

泉。

俺が部活を引退するときも、少し目を赤くしていた。

誰よりも俺の肘のことを知っていたのも、そして誰よりも心配してくれたのも泉だった。

泉は俺が高校では野球を辞めるつもりだったことを、どこかで感じ取っていたのだろうか。
引退するときも、高校ではどうするつもりかは聞いてこなかった。

ただ、俺の前で帽子をとって深々と礼をして、今までありがとうございました、お疲れ様でしたと、他の後輩と同じように言っていた。
俺は、敢えてシンプルにまとめられたその言葉と、泉のおおきな瞳に込められた感情を感じ取った気がした。

中学時代にたまに思いを馳せながらバイトばかりして過ごした一年の終わり。
そんな俺に宣告されたのは。

留年。

それを聞いたときに俺に訪れたのは、まぁバイトばっかしてたし授業もほとんど分からなかったし、しょうがねぇかな、という諦めと脱力感。

しかし、それ以上におおきく俺を揺さぶったのは。

西浦に来年度から硬式野球部ができるという話。

もう野球をやることのないこの身を抱えた俺は、次の春から一体どんな気持ちで野球部の練習を眺めることになるのだろう。





そうして再び訪れた春。

二年に進級することのできなかった俺は、1年9組の教室の隅っこでぼうっとしていた。

朝、周りは昨日入学式を終えたばかりの、入学仕立てほやほやの一年生ばかり。

皆そわそわとして落着かず、なんとかして友達を作ろうとしている。
俺も既に何人かに話しかけられ、談笑した後だったりする。

俺が留年してるなんて、今のところまだ誰も気付いてないんじゃないかなぁ。
でも昼休みになったらきっと梅と梶がわざわざ二年の教室からからかいに来るだろうから、その時にばれるかもな。

などと思いながら教室の入り口に目をやったその時。

ガラッ

扉が開いて、入ってきたヤツと目が合った。

それは。

中学を卒業してからも、忘れたことなんてなかった、そのおおきな瞳。

ソイツは。

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