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□舞 My ワールド
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「それもそうだなぁ。夏はホント野球ばっかやってたからなぁ…」
「まぁ今もおんなじだけどな」
それぞれ花火を手にしながら、皆の表情が一瞬遠くを見るようなものに変わる。

部室に微かに漂う汗の匂いから連想される、自分のユニフォームに染み付いた大量の汗と泥で出来た汚れのこと。

あの夏の熱気、グラウンドに降った雨、蒸せ返るような湿気。

思いだす。

試合中のあの緊張感、手の震え、耳に届く、自分自身の荒い呼吸。

そして…俺の手に今でも甦る、
あの時の阿部くんの手の温度。
それらの感覚が、俺の中にフラッシュバックする。

恐らく皆もそうだったのかも知れない。
でも一瞬止まったそんな皆の言葉と空気を動かしたのは、俺にとっては意外な人物だった。

「花火、やろうぜ」
そう言って阿部くんが、俺の手から花火をひょいと取りあげた。
「お。見ろよ。線香花火もこんなにたくさん入ってるぜ」
そう言って俺の目を見る。

俺はその時、思わず目をぱちくりと見開いてしまっただろう。

「お!阿部、珍しくノリいいじゃん!なぁなぁ、今から河原行って皆でやろうぜ〜!」
田島くんが大きな目をますます大きくして、再び歓声をあげる。
「そーだな。季節外れでも、夏に出来なかった分、たまにはわいわいやるのもいいか」
泉くんが頭の後ろで手を組みながら同意する。
「だよね。こんなにたくさんあるんだから、やらないと勿体ないよ」
西広くんもニコニコと言った。
「だよな〜!おっ田島田島、コレロケット花火じゃね?!」
水谷くんも嬉しそうだ。
花井くんもふぅっと息を吐きながら言う。
「んでも、俺らだけじゃ危ねぇだろ。ちょっと待ってな。今シガポかモモカンに一緒に来てもらえねーか頼んでくっから」
そうして俺を見る。
「んじゃ三橋か阿部、バケツ2、3コ用具倉庫から取って来といてくれねーか?」
「う、ん!分かった!」
俺は勢いよく返事を返した。
「りょーかい」
阿部くんも頷く。

阿部くん、も、花火楽しみなんだな!
そう思うと俺はなんだか無償に嬉しくて、阿部くんを振り返った。「花火、楽しみだ ね!」
そんな俺に阿部くんは軽く笑って言ってくれた。
「そーだな」
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