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□夕暮グラウンド
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ザッザッとグラウンドを横切りながら、阿部は思う。

なんだ?俺、緊張してんのか?
三橋相手に、どうして俺が緊張なんかしなくちゃならないんだ?

それでも歩む足は止められない。
近付く俺の足音に、三橋は気付いたらしくこちらを見る。

「あ、阿部くん」

何を話そう。
お前みたいな純粋でびびりなヤツを怖がらせないために、俺は何を言ったらいい?

マウンドから数歩手前で立ち止まったが、三橋の顔を見ても、すぐには言葉が出てこない。

「あ………っと」

言葉につまり、阿部は所在無さ気に自分の足元を見下ろした。

何か話題話題!自分から寄ってったんだから、何か話振らなきゃ!

そんな阿部を、三橋は首を傾げて見ている。

しばし迷った末に出た言葉は。

「お前さ、さっきからずっと空見上げてっけど、そんな上ばっか見てて首痛くなんねー?」

我ながら苦し紛れだよなぁ。
まぁこの際仕方ない。

三橋はそんな風に言葉を絞り出した阿部を、目をぱちぱちさせながら眺めたあと、唐突にフヒッと笑った。

「大丈夫だ よ!あのさ、俺、星見てたん だっ!」

それは知ってるよ。俺さっきからずっとお前見てたから。
でも今コイツ、俺の顔見て笑ったぞ?!
なんだかホントにいつものコイツと違うなぁ。

「そっか。もう大分暗くなったしな」

なんとか話を続けよう。三橋とコミュニケーションを取ろう。

でもマウンドで一心に星を見るという三橋の行動が読めなくて、俺の頭はぐるぐるした。

「でもなんでそんな一所懸命見てんの?なんか面白いのか?」

しまった。ちょっとぞんざいな口調になっちまったか?

でも、そんな俺の質問にも三橋は答えてくれた。

「あのね、俺、空全体使って、野球座作ってたん だ!」

…………………………は??

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