キリ番小説
□you 心論
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「ちょっとお前、こっち来い!」
練習が終わると即座に、俺は三橋の手をガッと掴むとズカズカと校舎裏の人目に付かない所まで引っ張って行った。
そんな俺の剣幕に驚いた他のヤツらが、俺らを遠巻きに見ている。
しかし当の三橋が、俺が声を掛けた時こそビクゥッと飛び上がってビビッたが、あとは引っ張られるがままに俺に大人しく付いて来たためか、誰も止めに入ってはこなかった。
三橋の手は俺にビビッて緊張のために冷たくなってるかと思ったが、意外に暖かかった。
イライラしながらも、俺はそれを少し不思議に思った。
「で?今日の態度は一体どういう訳なんだ?」
校舎裏に着くと、俺は三橋をジロリと睨んで問詰めた。
「う、あ、えっ、えっと、あの、その…」
三橋は再び真っ赤になり、その視線は俺の視線を避けて上下左右をさまよう。
「お前、今日俺のことをじっと見てただろ?それなのに、何で俺が見ると目ぇ逸すんだ?めちゃくちゃ気になってしょうがねーんだよ!」
三橋は俯いて、胸の前で手をもじもじと動かしている。
俺は、はぁ〜っとおおきな溜息をつくと、頭をがりがりと掻いた。
なんだこの意思疎通の出来なさ。
バッテリー組むようになってもう何ヶ月か経つのに、俺らのココロは一体いつになったら通じるようになるんだ。
俺はもうイライラを通り越して泣きたくなった。
「あの!阿部 くん!あの、おれっ!」
その時、三橋が唐突にデカい声を出してガバリと顔を上げたので、俺は不覚にもビクッとしてしまった。
「おれ、おれっ、あ、あべ、阿部くんにっ!」
顔は相変わらず真っ赤。握り締めた両手の拳はブルブルと震えている。
が、しかし、今度は焦点の合った瞳でしっかりと俺を見詰めていた。
精一杯見開かれた目は、ウルウルと潤んでいる。
「あのっ!あのっ!」
三橋は酸欠の魚の様に口をパクパクさせ、切羽詰まったあまりに今にも泣き出しそうだ。
「な、なんか分かんねーけど、取り敢えず落ち着け。な?」
このままだと興奮するあまりに三橋がブッ倒れてしまいそうな気がして、さっきまでのイライラも完全に吹っ飛んでしまった俺は、取り敢えず三橋の背中をポンポンと叩きながらなだめた。
「深呼吸しろ、深呼吸」
「う、うん」