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□ある夏の晴れた日
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ある夏の晴れた日





ミーン ミーン

響き渡る蝉の声。
夏休みの学校。

しかし、俺らには夏休みなんか関係ない。
練習が一段落ついた昼休み、涼しい場所を求めて足は校舎へ向かう。

受験を控えた3年生用に夏休みも解放されている校舎。
だが、1・2年生の校舎は静かなものだ。

日陰の教室。
裸足の足の裏に冷たい床の感触。

誰もいない校舎の中ではしゃいで走り回る田島と三橋とはぐれた俺の足は、何故か1年9組へと向かう。

何気なく歩む足は、薄暗い教室の中で机に突っ伏す金髪に目を奪われて立ち止まる。

ギラギラと日差しの強い外の世界。
対照的に暗い教室の中。
その中に浮かび上がる金髪。

それは紛れもない、浜田だった。

寝ているのだろうか?
叩き起こして驚かしてやろうか。

ふと沸いたいたずら心から、足音を殺しそっと近付く。

デカい図体に似合わず、スヤスヤと眠る幼い子供みたいな顔。
だらしなく垂れた涎。

思い切り驚かしてやろうとしたその時に、俺の目に飛び込んできたのは。

浜田の手に握られた、繕われる途中の俺らの練習着だった。

スライディングであいた穴、擦り切れそうな膝の部分が、浜田の手で一針一針丁寧に縫われていた。

コイツが縫ってたのって、横断幕とか腕章だけだと思ってたのにな。
今まで気にもとめなかった小さな綻びまで、浜田は知らない内に繕ってくれていたのだ。

起こさないように、前の椅子に腰掛けて寝顔をじっと見る。

間抜けな顔してら。

柔らかそうな金髪を、手でそっと撫でる。
少し汗ばんだ髪の毛はやはり柔らかくて暖かかった。

「ムニャムニャ…う〜ん…。泉ぃ〜…」

?!
寝言で俺を呼んでる?

寝たままふにゃりと笑った浜田は一言。

「…拾い食いは、お腹壊すぞぉ〜…」

!!
殴りたい衝動を思わずこらえる。
コイツは…俺を一体なんだと思ってやがんだ。

まぁいいか。頑張ってるみてぇだし、今回は大目に見てやろう。

そうして俺は、金髪の頭に頬を付け、日向のにおいをいっぱいに吸い込んだ。

いつもありがとな。
面と向かっては言わないけど。

そして静かに教室を後にする。

ある晴れた夏の日。
俺の体いっぱいに、お日様のにおい。





END

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