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□霧中夢中T
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「浜ちゃ〜ん!」
「は〜ま〜だっ!野球しようぜ〜!!」
良郎なんてダサい名前、俺があんまり好きじゃないのを知っているのかいないのか、皆俺を上の名前で呼ぶ。
俺の名前は浜田良郎という。
霧中夢中T
今日もギシギシ荘のヤツらが俺を野球に誘いに来た。
山岸荘、通称「ギシギシ荘」に住んでる子供たちは、家は貧乏だが皆元気があり余っている。
俺もその中の一人だ。
そんな俺たちは、男の子も女の子も毎日毎日飽きもせずに野球ばっかりしている。
正直、ヒーローごっこなんかよりも野球の方が断然面白い。
俺は新品のグローブを手に取った。
その隣には、以前から使っていた俺には大分小さくなってしまった古いグローブ。
これ、もうキツいからそろそろ捨てちゃおうかな。
でもまだ使えるし勿体ないから、誰か俺よりちっこいヤツがいたらあげるんだけどな。でもギシギシ荘のヤツらはもう皆グローブ持ってるしなぁ。
そんなことを考えながら新品の方を持って外に飛び出す。
「おーう!お待たせ〜!」
外に出てみたら、どうやらいつも遊んでるヤツらが誰かちっこいヤツを取り囲んで何か喋っているみたいだった。
皆の輪の中心にいるのは、茶色がかったふわふわの髪をした、今にも泣き出しそうな顔の幼い少年だった。
あれ、コイツみたことあるぞ。最近俺らが野球してるのを遠くから見てたヤツだ。
前に一回声掛けようとしたら、びくってしてピュウッて逃げちゃったけど。
「なぁなぁ浜ちゃん、コイツ俺らに話があるっぽいぜ」
仲間の一人が言った。
目の前のちっこいヤツは、何か言いた気にあうあうと口を動かしている。