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□夕暮グラウンド
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夕暮れグラウンド
夕闇に染まる空を眺めながら、三橋は一人マウンドに座っていた。
夏の蒸し暑さを払拭するような爽やかな風が、すっかり汗の乾いた三橋のフワフワの髪と白い素肌をなでながら吹き過ぎていく。
薄い紫色の空。どこからか聞こえる蝉の声。輝く一番星。
今日は監督は珍しく早めに練習を切り上げ、自由時間にした。
でも元気が余って仕方のない他の皆は、結局駐輪場の方でわぁわぁと鬼ごっこをしている。
つかまえたー!という田島の歓声を遠くに聞きながら、三橋は澄んだ瞳で徐々に姿を現し始めた星を数えていた。
そんな暗くなり始めた中で少し離れたところから、阿部は三橋を眺めていた。
あぁあ、マヌケなツラしてら。
一心に空を見上げる横顔、ポカンと開いた口。
なにが面白くて、そんなに無垢な瞳で空を見ていられるのだろう。
でもそんな三橋は、いつものおどおどびくびくした三橋ではなかった。
のびのびとして、なんだかとても寛いでいるように見えた。
そしてそんな三橋を、どうして自分は飽きずに眺めているのだろう。
阿部は、三橋に声を掛けたいのか、それとももっとこうして静かに眺めていたいのか分からなかった。
しかしアイツはホントにマウンド好きだよなぁ。自由時間って言われてもああしてマウンドに座り込んだいる投手なんて。
三橋は目をつぶって俯き、大きな溜息を一つしたようだ。
空はどんどん暗くなり、離れた場所からでは三橋の顔もどんどん見えなくなる。
もっとのびのびしてるアイツを見ていたいな。
でも俺が近くに行ったら、アイツはまた緊張してキョドるかな。
…………………………
そういや俺らって、2人っ切りでいる時ってほとんどないな…。
グラウンドの金網にかけた自分の手が、汗ばんでいるのを感じる。阿部は三橋を見詰めながら、ほんの少しだけ息苦しいような、胸の奥がチリチリするような感覚を覚えた。
近くに行ってみようかな。今ならちゃんと、俺の目を見て話してくれそうな気がする。
そう決めて、阿部は三橋に向かい足を一歩踏み出した。
心臓がどくんとおおきく脈打つ。