一刀無双の『碧』

□夢物語不続
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2 夢物語不続

昨日見たあの夢が忘れられない。
軽いバッグと碧の入ったケースを背負って学校に向かっている途中、いつものように小島が話しかけてきたが適当に流した。
学校の駐輪場で、自転車の鍵を掛け、立ち去ろうとした時に誰かが僕の一寸先を横切ろうとしたので、狭い駐輪場の中で上手く横に飛びそれを避ける。
「ごめん。」
「ごめんなさい。」
二人の声が重なった。
謝ってきた女の子は去年に引き続き今年も同じクラスである倉田幸子だった。
僕は彼女に謝ったからと、「また教室で。」と言って、立ち去ろうとしたが彼女は「少し待って。」と言い僕を待たせ自転車を止めるとすぐ戻ってきた。
「おはよう、八幡君。」
「おはよう、倉田さん。
どうかした?」
「うん、少し。」
倉田さんは制服のポケットから一枚のカードを取り出し見せてきた。
それがタロットだと言うことは分かるのだが、何を意味するカードなのかは分からない。
僕が「これは?」と言うと倉田さんは珍しく真剣な顔をした。
「今日の朝、不思議な夢を見たの。」
「夢?」と聞き返すと彼女は首を縦に一度振る。
彼女、倉田幸子は一言に行ってスピリチュアルな女の子だ。
見えない物が見えたり、予知夢を見たり、知らないことを知っていたり…。
彼女を気味悪がって遠ざかる人も多いが僕はあまりそこを差別したりはしていない。
なぜなら以前に彼女言ったことが本当に起こりとても驚いたから。
「八幡君が倒れていて、虫が群がっている夢。」
いきなりものすごく気持ち悪いのが出てきたな…。
「いや、私もびっくりしたよ。
八幡君に死相が出るなんて。」
「いや、こっちがびっくりだよ。」
僕が眉をゆがめて答えると「あの!でも心配しないで。絶対じゃないから。」と倉田さんは続けた。
「でも、絶対じゃないけどね。」
「まあ分かった。」
「今日は早く帰った方が良いよ。
特に日が沈む前に。
10%以下だからどうにかなるだろうけど。」
「10%って随分具体的な数字だね。」
「本当ならもうちょっと高いけど今日の八幡君にはついてるから。」
「ついてる」の一言が声のトーンからして、どうしてか運ではないような気がして「何が?」と聞くと倉田さんは笑顔で「霊が」と。
それ以上聞いたら言霊的なもので本当に幽霊に合いそうな気もしたが、好奇心の方が勝ってしまい僕は「ちなみにどんな?」と聞いてしまった。
「綺麗な人だよ。
大和撫子って言うのかな。とっても美しい人なの。」
「でも大和撫子の霊って言うと大体男に捨てられて復讐する奴しか出てこないんだけど。
昔の映画みたいな。」
「そんな事ないよ。
別にテレビから出てくるわけじゃないし、家が呪われているわけじゃないんだから安心して。
それに目にクマあったり髪がぼさぼさだったりもしないから。」
「具体的には?」
「えっとね、年は私と同じくらいで、紫と赤の着物を着ているかな。
目立った傷はないしすごい肌もピチピチで髪型は一つ結びで。
後、胸が大きい。」
ナニソレ、幽霊なのにやたらハイスペックなの?
「普通はどこかしらぼやけてるけどこの人はクッキリしてる。
死んで間もないのかな?」
見える人ってそこまで分かる物なの?
「後、今は眠ってる。
起きてたらお話出来たかも知れなかったんだけど。」
幽霊って寝る物なの?
色々つっこみどころはあるけどとりあえず幽霊とお話しするのはやめない?
「本題からずれちゃったけど気をつけてね。」
「あ、うん。」
「所で今日八幡君は不活動紹介するの?」
「もちろんするけど。」
倉田さんは今まで手に持っていたタロットをポケットに戻すと、再び引き出した。
「どう?」
倉田さんはニッコリと笑い一言「来るよ、2人。」と言ってくれた。
安心しつつも今日の部活動見学を頑張るために僕は肩にかけていた革製の袋を担ぎ直して左手をぐっと握り締めた。
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