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□天使の彫像
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これは後の世に【神の手を持つ物】と称される彫刻家『Auguste Laurant』(オーギュスト ローラン)。彼の稀代の傑作、戦乱の最中に消え、平和と共に姿を現したとされる未だ神秘のヴェールに包まれた彫像『天使』(アーンジェ)に秘められた物語。

その男は若くして天才と呼ばれ、彼の作品はどれも高額で取り引きされた。
しかし、彼は「物言わぬ冷たい石に 生命(いのち)を灯せる」などと俗人達にほめられても、「在る物を唯在る様に 両の手で受け止めて、温もりに接吻(くちづ)けるように 想いを象(かたど)るだけ……」と言って決して自分の技術を鼻にかけたりはしなかった。

丘の上に立つ風を受け廻っている風車。その元にたつ風車小屋(ムーラ ナ ヴァン)が彼の工房(アトゥリエ)。
彼は他人を入れずそこで絵を描いていた。
しかし、彼は次第にスランプに陥っていった。

そして彼は考えた
「足りないのは小手先の素描力(デッサン)ではない――現実をも超える想像力(イマジナシオン)
嗚呼…光を…嗚呼…もっと光を…『即ち創造』(クレアシオン)…憂いの光を……」

制作に行き詰まった彼は風車小屋(ムーラ ナ ヴァン)を出て、修道院(モナステール)に来た。
そこで彼は一人の女性と出会った。
その女性は人から見てさして美しくはない人だったが彼には女神のように見えた。
彼はその女性に惚れ修道院(モナステール) に通い詰めた。

彼は彼女とたくさん話し、たくさんの作品を書いた。
そして彼は彼女と結ばれ、愛の結晶を授かった。

しかし、彼女は元々体が弱く、難産になると医者に言われた。
それを聞いた彼は言った。
「君の手が今掴んでいるであろう その《宝石(いし)》はとても壊れ易い
その手を離してはならない 例え何が襲おうとも……」
しかし、彼女はそれを拒み、子を産んだが力尽きてしまった。

母親の灯(ひ)を奪って この世に灯った小さな《焔》
しかし、彼はその輝きを憎んでしまった。
この子さえいなければ彼女は死ななかった。と、気づいたときには彼の手は我が子の首に向かっていた。
彼は怖くなって子を修道院に預け、風車小屋に逃げた。
暗い部屋の中男は考えた。
我が子を殺めようとした自分が何をすればいいのかを。
「必要なのは過ぎし日の後悔(ルグレ)ではない――幻想をも紡ぐ愛情(アフェクシオン)
「嗚呼…光を…嗚呼…もっと光を…『即ち贖罪』(エクスピアシオン)…救いの光を……」

そして彼は根本的には何の意味もない事を知りながら決意した。
愚かな男の最期(さいご)の悪足掻き…


最後の制作
最後の時
彼はすべてを賭け刻み始めた
そして、想像の翼は広がり。やがて『彫像』の背に翼を広げた――
「嗚呼…もう想い遺すことはない やっと笑ってくれたね……」



僕のお話はこれでおしまい
あの男は最後に何を見たのか感じたのか。
そして、『天使』(アーンジェ)に何を込めたのか

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