傷から芽生える

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何がダウト(嘘)なのだろう。
早川はさっきまでの申し訳無さそうな表情を消し、いつも皆に振る舞っているような、爽やかなで気持ち悪い微笑を浮かべながら首を傾げる。
「何がダウトなんです?」
「どうせ、本気(で手加減して)殴ったって事でしょ?」
それを聞いて殴られたときのことを思い出したが手加減していたようには思えない。
「それにお前が感情的になったら痣じゃすまないでしょ。」
「いやいや、本気でしたよ。」
「小4の頃に同級生の歯を三本と腕折ってきた人の今の本気がそんなわけないでしょ。」
早川って、そんなことやってたんだ…。
「じゃあ、仮にそうだったとして僕が何をしようとしてたと?」
「山神だっけ?
その子のことをみんなの頭から忘れさせる。」
早川の質問に先輩はすぐ答えた。
「多分そんなもんでしょ。
ついでにそれは大平さんに山神さんのことを頼まれたから。」
何を言っているか理解できなくなり始めている私は、どうにか頭で彼が何をしたのかを考える。
「それとこれは意図していないと思うけど、派手に動いたことで燐火が加害者だって事を周りから忘れさせて結果的に燐火を助けた。
そうでしょ。」
なんか知らないけど早川に私は助けられたようだが、何言ってるか分からないから無視しよう。
Vマークを見せつける先輩に、早川は小さく溜め息をついた。
「まあ、だいたい正解ですね。」
「流石に君の考えが分かってきたよ。
で、この後お前はどうするのかい?
先生に事実を報告する?」
「いや、推薦は消えるっぽいけど、先生たちはそこまで怒ってないからこのまま行きます。」
「やることがまとまってるならいいや、じゃあ、そろそろお開きにしますか…。」
先輩は私達に背を向け、家の方に歩き始めた。
私も今日は家出すると誓ったので先輩について行こうとした。
しかし、そこから急に先輩が走り始めた。
私を置いて、一人だけ逃げようとする先輩を追いかけようと私も走った。
その次の時には私はぬかるみに足を取られ転けた。
私を見捨てて走って逃げる白状者な先輩と、ぬかるみに足を取られ無様に転けようとする私。
そして、そんな私の上着を引っ張り、助けようとする早川。
しかし、その早川も体制が不安定だったためか私に引っ張られるようにして転けた。
ドンっと着地して私はゆっくり目を開ける。
私はどうやら早川を下敷きにして怪我せず、汚れずにすんだようだ。
一方、下敷きにされた早川は背中をぶつけたのがそんなに痛かったのか私が立ったのを確認すると四つん這いになって腰を叩いていた。
また、服はさっきので汚れてしまった。
漫画ならここはカッコ良く倒れるのを止める場所だが現実は上手く行かないらしい。
お世辞にも今の早川は格好良かったといえない。
「大丈夫か?」
「ダメ。
痛い…」
ここはダメだとしても大丈夫だと虚勢を張るべきところでは?
なんか全体的にカッコ悪い…。
そして気づいたときには先輩に逃げられていた。
一様、先輩の家まで行けばまた会えるが、逃げたという事は今日はもう会いたくないという事だろう 。
さて、私は今日、どこに泊まればいいのか…。
「所で高倉さん。
一段落ついたから聞くけど、まだ時間ある?」
「あるけど。
なんかあんの?」
「あれだよ。
山神さんの所に行こうかなって。」
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