恋煩い
□序章
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風がびゅうっと吹き荒れる
切り立った崖の上に立っている彼女の髪を足元から吹き上げる風がゆらゆらとゆらす
崖の下には大きな窪みができていた
その窪みの端にはかつて家だったものなどの木片が散らばっている
彼女はそれを静かな瞳で見下ろしていた
その家だったものの側により泣きじゃくる子供や、夫にしがみつき震える女
それらの視線は崖の上にたつ彼女に向けられていた
その傍らには同じく佇む影があった
「また、一つ人間の集落を消してしまった」
その言葉に影は何もかえさない
それを意にも返さず
彼女は踵をかえした
「行こう。もうここに用はない」
通り過ぎていった彼女を追わずしばらくその集落を見つめていた
やがて、影は追いかけるように彼女の後につづいた