george ss

□Call my name
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とにかく冴えない女の子だった。だーれもわたしになんか気づかない、ほんとうに存在感のない女の子だった。自分のことを女の子と呼んでいいのか疑うくらいに、冴えない女の子、いや冴えない人間だった。だから地味に、平凡に、目立たないように生活していた。地味な見た目と卑屈な性格で約束されていた平凡、もしくはそれ以下の生活は、今日であっけなく手放さざるを得なくなってしまったのだ。


「こんばんは、ミスlast name」
「え?あ、あの、こんばんは」


談話室でわたしに声をかけてきたのは、ウィーズリーの双子のどっちかだった。もうみんなが寝静まった夜中で、いまがチャンスだと思い、やり残していたレポートを始めたところだったのだ。しまった、と思った頃にはもう手遅れで、えもいえぬ間に彼はわたしのとなりに座った。


「それ、魔法薬学?」
「え、ええ」
「提出はあした?」
「明後日だけど…」
「そうか、それは大変だ」


そう言うと、彼は黙ってわたしの手元をじっと見つめた。ど、どういうつもりなんだろうと考えて、字を間違えたり斜めになったりと、もうめちゃくちゃだ。わたしはこの二人が苦手だ。同じ寮とはいえどまるで違う。彼らを光とするならわたしは影だ、と思う。


「あの、僕がこわい?」
「え?」
「ごめん、怖がらせるつもりは」


バツが悪そうな顔で謝られたのが申し訳なくなって、わたしは必死に頭を振った。


「あ、あの、違うの。あ、あなたに名前を呼ばれるなんてびっくりしちゃって」
「名前を?僕が読んだのはラストネームさ。first nameって呼んでもいいかな?first name・last name」
「えっ!?あの、」
「俺が誰だか、わかる?」
「う、ウィーズリーくん」
「ジョージ」


そう言って、彼は立ち上がった。


「おやすみ、first name」


彼はわたしを動揺させる天才のようだ。ポカンとしているわたしの額にキスを落として、ひらひらと手を振って寝室に戻っていった。なんてことだ、額にキスだなんてまるでお姫様じゃないか。忘れよう、レポートに集中しなくちゃ。



寝室に戻って眠りについて、それからまぶしい朝の光に目をさます。昨日のことが夢のように感じられて、不思議な気分になった。どうやら寝坊したようで、いつもは朝食に行っている時間だった。慌てて着替えて下に降りると、大あくびをしているウィーズリーくんがいた。もしかして、夢の中で見たジョージ・ウィーズリー?



「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「あの、寝坊しちゃって。ウィーズリーくんは、」
「ジョージだ」
「えっ」
「ジョージって呼んで」


やっぱり夢じゃなかったんだと気づくのに三秒。名前を呼ぶのに、十秒。


「……ジョージくん」
「もう一回」
「ジョージくん」
「もっと」
「ジョージくん」


恥ずかしくてどうにかなりそうだった。今まで話したこともないし、苦手だったはずなのに、ちっとも嫌じゃない。どうしてか、やっぱり夢みたいだ、と思ってしまう。


「うれしくて死にそう」


ジョージくんの真っ赤な顔と、向こう側で燃える暖炉と、あと、きっとわたしの赤い顔。


「ジョージくん」


その名前に、地味で平凡で退屈なわたしの日常は鮮やかな色を持った。目の前で笑う彼は眩しい。眩しくて、綺麗だった。


「first name」


ジョージくんはわたしの名前を呼んで、やさしく笑っていた。





Call my name
( さよなら、モノクロ )

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