「ジョージ、ほら朝だよ起きよう」 「ん…フレッドは?もう起きた…?」 「……ジョージってば……」 戦いが終わり、たくさんの人が死んでいった。わたしの両親も兄弟も、もういない。そしてフレッドも。あんなに楽しかった毎日はもう二度と戻ってこない。どうにもこうにも、なにも頭に入ってきてはくれなくて、わたしたちの日常の起点がフレッドだったということを、いやでも思い知らされる。 「あ、first name……」 「おはよう、夢を見てたの?」 「うん、たのしかった。わらってた」 ジョージはちいさな声で言った。ゆっくりと体を起こして、おはようと言ったので、わたしはもういちど、おはようと言った。なんだか泣いてしまいそうだった。ぐっと唇を噛んで、ジョージを見ると、わたしと同じ顔。頬に触れてみたら涙が静かに落ちた。こんなに穏やかなのにね。 「おなかすいたね」 「うん」 「また、ホグワーツのミートパイがたべたいね」 「うん」 「ごはんできたって、おばさんが呼んでるよ」 「うん。ね、first name」 わたしの言葉に頷くだけのジョージが、泣き顔のままで、頬にあった手を掴んだ。 「first nameは、どこにも行かないよな?」 友達も両親も、一度にいろんなものを失って行き場のなくなったわたしに、ここにいてよと言ってくれたのはジョージで。今更どこに行くっていうんだ。わたしだって不安で、わたしだって、 「どこにも行かないよ。ずっとそばにいるよ」 そう言うと、ジョージはわたしを強く抱きしめる。寝起きの匂いがした。 ある晴れた夏の、穏やかな朝のことだった。 淡く悲しい朝を ( フレンチトーストの匂いがするよ ) ( ねえ 強く生きていこうね ) |