「おーいフレッド!おもしろいことやってるぞ!」 パンジー・パーキンソンとfirst name・last nameが大ゲンカしているという話を、ジョージが持ってきたのは休日の昼間だった。騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まって、そうだそうだ!もっと言ってやれ!などと囃し立てていた。 「穢れた血がわたしに刃向かうなんて」 「穢れた血しか言えないトロール頭のパンジー・パーキンソン」 「なんですって!?」 ジョージはやれやれという顔でlast nameのことを見ていた。同級生のlast nameは、グレンジャーみたいに真面目な堅物野郎だ。こいつに悪戯しているところが見つかったらこっぴどく怒られてしまう。笑わせようとしているのに、怒った顔ばっかりだ。俺もジョージも、彼女のことが大の苦手だ。あんなに整った顔立ちだっていうのに、考えることときたらまるでマクゴナガルみたいにお堅いんだ!真面目なあいつがめずらしく、本気の口喧嘩をしているのだ。 「穢れた血に穢れた血と言ってなにが悪いの?わたしは間違ったことは言っていないはずよ」 「自らの品性を下げる言葉は人に対して使うべきではないと思いませんこと?」 あいつがゆっくりと話す時は心底怒っている時だ。ついこのあいだ「汚いぞ、ポッター」のバッジをつけたセドリックの仲間たちに、まるで子供に話しかけるように「だからあなたたちはセドリック・ディゴリーのオマケなのよ」と言っていたのを思い出した。last nameは穏やかな顔でパーキンソンを見た。こりゃあヤバい、逃げたほうがいいぞパーキンソン。集まった生徒たちがやいのやいのと野次を入れ、興奮したらしいパーキンソンがまくし立てた。 「あ、あんたなんか、あの恥さらしのウィーズリーとあの豚小屋で仲良く暮らせばいいんだわ」 俺たちが怒りで飛び出す前に、last nameがパーキンソンの頬をパチンとぶった。乾いた音にその場はシンとなり、パーキンソンもキョトンとしていた。 「ああ失礼。下がるほどの品性なんて持ち合わせていないようね」 パーキンソンは茹でタコのように真っ赤になり、そしてギャー!と喚きながらlast nameにつかみかかった。髪を引っ張って、顔を引っかいて、大騒ぎだ。last nameはそれでも落ち着いていて、なんていうか、もう煽っているようにしか見えない。いてもたってもいられずに、俺とフレッドが止めに入ったけれど、パーキンソンは意味不明なくらい力が強い。 「やめ、やめろっておい。すげえ力だな、女じゃないみたいだ」 「さ、触んないでよ!魔法界の恥晒し!」 「ずいぶんと偉そうねえ」 ゆっくりと、淡々とした口調だった。 「ねえ、純血のミスパーキンソン。フレッドやジョージがあんなに楽しそうなのが羨ましいの?ロンには賢い親友が二人もいて、ジニーはあなたと違ってとっても可愛らしいわよね。羨ましいの?」 「あまり調子に乗るとドラコの父上が」 「それは脅し?自分じゃなにもできないの?」 「last name落ち着け」 「わたしは落ち着いてるつもりだけど」 「お前はまず自分の顔を鏡で見るんだ。血だらけだぞ」 「ええ?」 彼女の引っかかれた頬の爪痕から血が滲んでいた。そこに触れると顔を歪めて小さな声で言って「痛い」と言った。 「怪物に引っかかれたみたい」 それから にひひ、と恥ずかしそうに笑って、パーキンソンに言い放った。 「失礼、ミスパーキンソン。あなたとお話しするのはこれきりよ。わたしに近寄らないで頂戴」 「ア、ア、アバ、アバダ」 last nameがくるりと後ろを向いた瞬間、パーキンソンが杖を向けてその呪文を唱えようとした。なんて奴だ、背後から殺そうとするなんて!俺とジョージも咄嗟に杖を向けた。 「「「プロテゴ!」」」 「「え?」」 俺たちの声のほかに、もう一つ。 「「マクゴナガル先生!」」 顔を真っ赤にして、カンカンに怒ったマクゴナガルがlast nameに杖を向けていた。 「どういうことなのですかパーキンソン!許されざる呪文を唱えようとするなんて!」 「でも先生、こいつが!」 「言い訳など無用!ダンブルドア先生に報告しますからね、それからスリザリンは50点減点です!ミスパーキンソンには処罰を与えます!」 どういうことなのか説明なさい!と、マクゴナガルは俺たちに息巻いて聞いてきた。 「last nameは何も悪くありません!」 「そうです!顔に怪我を…!」 「どうしてこのような事態になったのかを聞いているのです!」 「友人のことを侮辱されたので、頬をぶちました。先に手を出したのはわたしです」 “友人” ーー。 ちらりとジョージを見ると、同じようにジョージもこっちを見ていた。 「友人を侮辱されたことに腹がたつのはよくわかります、ですがあなたは煽りすぎです」 「はい先生」 「事情が事情ですので他言はしないように。気をつけて寮にお戻りなさい」 いつのまにか野次馬たちも消え、俺たち三人はぽつんと取り残されて、微妙な空気が流れていた。 「あの、last name、」 「ありがとう、守ってくれて」 小さな身体が、ぺこりとお辞儀をした。怖かっただろうに、手が震えていた。 「無事でよかった」 「今頃マクゴナガルにぶっ飛ばされてるぜ」 「帰りましょう。わたし、いつ殺されてもおかしくないし」 last nameはそう言って、ニヤリと笑った。 「冗談なんか言えるんだな、驚いた!」 「あなたたちをずーっと見てれば、冗談のひとつやふたつ」 「最高だよ!last name!」 「first nameって呼んで頂戴」 こんなふうに笑うんだ、と思った。 ( やばい、これって ) ジョージとfirst nameは、楽しそうに歩き出した。 「first name!」 振り向いた彼女の髪が揺れた。 「と、ともだちから、よろしく」 「もちろん」 ( 抜け駆け禁止だぞ、フレッド ) ( 言ったもん勝ちさ ) |