小説
□甘えたい【一期一振】
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「はぁ…」
夕餉の後部屋に戻り一人、ふと、溜め息をつく。
原因は…そう、主こと主が最近よく鶴丸と話しているのだ。
勿論、いくら自分と主が恋仲といえど独り占めなんて出来ないという事は知っている。
皆の主なのだから…
それでもやっぱり、自分以外の男と楽しそうに話しているのを見るとどうもいい気分ではいられない。
そして、主が甘える弟達や清光を可愛がる姿を思い出し呟く。
「せめて、弟達や清光殿のように甘える事が出来れば…」
「いち兄どうしたのー?」
「乱!?」
誰かに聞かれているなど思ってもいなかった一期一振は驚きながらも、部屋に入ってきた弟の名を呼ぶ。
「い、いつからいたのですか…」
「ん〜、溜め息ついたあたりからかな♪」
とっても分かりやすく顔色が青くなっていく一期一振。
「ところで…『弟達や清光殿のように甘える事が出来れば』って何の話ー?」
「そ、それは……」
「ふ〜ん…もしかして、主さんに甘えたいの?」
「なっ…!?」
「やっぱり図星かな〜?」
ニヤニヤし始める乱藤四郎に対し、さっきまで青かった一期一振の顔が今度は見事に真っ赤になっていく。
…乱藤四郎は、時々とても鋭い。
実はというと、主と一期一振が今の仲になるまでだってこの鋭い弟の助言には本当に助かっていた。
そして、乱藤四郎に隠しても無駄だと思い、正直に話し始める。
「なるほどね〜…それ正直に主さんに言っちゃえば多分あの人『何この人可愛すぎだろ!!誰だよロイヤルとか言ったのいや私だ!!』とか言いながら全力で可愛がってくれると思うよ?」
「それが何と言えばいいのか分からんのです…」
「ん〜、じゃあいっその事ボクが主さんに言ってあげよっか!」
「それはやめて下さい!!」
「やっぱり〜?まぁ、とりあえず甘えたいと言ったら絶対主さん可愛がってくれるし、それに嫉妬したなんて言ったらむしろ喜ぶんじゃないかな〜」
「嫉妬したなんて言えるはず無いじゃないですか…」
「じゃあやっぱりボクが主さんn」
「あああああ!!」
と一期一振が叫んだところで、鶴丸と話し終えた主が一期一振の大声を聞き、この人が大声を出すなんて珍しいと思いつつ部屋に入る。
「何かいち兄の叫び声が聞こえたんだけどどしたー?」
「あ、主殿!?」
一期一振の先程まで赤かった顔が青くなり、また真っ赤になっていく様はとても面白い。
一方乱藤四郎の方はというと、ニヤニヤしながら一期一振を見て、
「それじゃボクはそろそろ寝るから戻るね〜、…いち兄頑張ってね♪」
と残し部屋から出ていった。
(よ、余計な事を…!)と思う一期一振の前に腰を下ろしつつ、主は頭上に大量のクエスチョンマークを浮かべている。
そして一期一振の顔色の変化が落ち着くのを待ち、質問してみる。
「それで…いち兄、さっき何話してたの?」
「ええと……」
一期一振は黙り込み、その後何か言おうと口を開きかけたがやっぱりやめて、かわりにまた顔を赤くし始める。
そんな一期一振を見て(ン"ン"ッ…!)と思いながらも主は静かに一期一振を見ている。
思った事を表情に一切出さない事もある主は時々何食わぬ顔で恐ろしい事を考えてたりする。
…が、今はその話については割愛しておこう。