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□司が小さくなりました
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 ―――ボオォン!オォォン オォォン オォン…!!


「「ん?」」
 突然、撒き散らすかのように鳴り響く騒音。
 しかも、その音はこちらに向かってきているようだった。
 生憎、自分の車からは少し離れすぎている。
 あれが大量の敵ならば、こちらの勝ち目は薄い――早く、ここから立ち去った方が無難か。

「司ぁ、早ぉ帰るど。」
「………」
 陽二の心情を悟ったのか、司も黙って頷く。


 “先回りされていませんように。”


 そんなことを願ってみたりしながら、陽二は司を抱きかかえたまま車に向かった。
 こういう時、運命の女神は優しかったりするのだろうか。
 陽二の車の傍には、人は一人しかいない。まるで車の所有者を探しているようだった。
 よくよく見てみると、人の背中に書かれている文字はビースト。
 陽二はホッと息を吐くと、自分の車の元へ歩み寄る。

「おっ、やっぱ陽二かぁ。どうしたんなぁ?こがなトコで。」
 陽二の車の前にいたのは、ビーストの高間 数俊だった。
 数はニコニコと笑みを浮かべながら、陽二の元へ歩み寄る。
 だが、彼のそんな笑顔も、司を見るなり一瞬で凍りついた。


「……陽二の子供か?」
「違わい!!」
 真顔でそんなことを言われては、陽二もキッパリと即答する。
「ククッ、そぉじゃろォのぉ。」
 言って、数は薄く笑みを浮かべると、司の顔をマジマジと眺めてみる。
 だが、司は顔を見られないようにプイッとそっぽを向いた。
「何じゃい、人見知りが激しいんか?――しっかし、子供っちゅーんは可愛えのォ。」
 数は司の顔を覗き込みながら、グリグリと頭を撫で回す。
 まさかこの子供が司本人だとは知らない数に、陽二は苦笑しながらその様子を眺める。
 案の定、当の司は不機嫌極まりない顔で頬を膨らませていた。

「数、今日はどないしたんや、こがなトコで。」
「ああ、秀と散歩じゃ。たまにはえかろォが。」
 言って、クイッと数が指差す方には段野の姿が。
 彼は塀に腰掛け、ボーッと海を眺めていた。
「それよか…陽二ぃ、この子供は誰の子なぁ?やっぱ、お前ン子かぁ?」
「じゃけェ、違う言うとろォがいやァ!」
 ギャンギャンと叫び、陽二はからかって逃げ回る数を追い掛け回す。
 いつの間にか下へ下ろされた司は、小さく溜息を吐いた。



(早ぉ、元ン姿に戻りたいのォ……)
 オセンチモードになりつつ、司は先程から溜め息が止まらない。
 やれやれと肩を落としていると、急に自分の所だけが辺りより暗くなった。
 顔を上げてみると、塀で海を眺めていたはずの段野が、こちらの方へ来ていたのだ。

「………」
 段野はジーッと司の顔を眺め、何か考えるように首を傾げる。
 司もそれに反抗するように、まるで睨みつけるように段野を見てみた。
 すると、立っていた段野は司に視線を合わせるようにしゃがみ込み、またもや司の顔を眺める。
(段野の奴…ワシにかばちがあるんか……)
 そう叫んでやりたいのだが、ややこしくなるからあまり喋るなと念を押されている司。
 仕方なく、ガンを飛ばして少しでも抵抗を試みてみた。

「ボウズ、司によォ似とるのォ……」
「当たり前じゃい!ワシが司じゃけェの!!」
「?!」
「あっ!」
 司が慌てて口を押さえるが、もう後の祭り。
 段野が信じるか信じないかは別として、ハッキリと聞かれてしまったのだから。

「ワレ…ホンマにあの司か…?」
「うっ……」
 段野にずずいと迫られ、司は逃げ道を失ってしまう。
 いつも以上に迫力のある段野に、今日ばかりは司もタジタジになってしまっていた。
「声も似とるし、姿・形なんか、まんま小さくしたよォなモンじゃ……」
 逃げようとする司の腕を捉まえ、段野は司をグイッと自分の方へ引き寄せる。
 そして自分がよく見えるように、もう片方の手でアゴを捉え動けないようにした。
「言うてみィ…司か?司じゃあないんか?」
「…っ…!」


 ―――ボロ…ッ……


「?!」
 司の目から不意にこぼれた大粒の涙に、段野は慌ててパッと手を離す。
 ちょうどその時、片方が追いかけ、片方が逃げ回っていた二人がようやく元の位置に戻ってくる。
 ところが、今のこの状況を見るなり驚きで目を見開いたのだった。

 2007/2/20
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