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□司が小さくなりました
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朝 陽二らが起きると…
我等が極楽蝶八代目頭、桐木 司が小さくなっていた。
ちょこんと目の前に正座し、くりくりとした黒目を覗かせどこか不安そうな表情で彼らを見上げている。
その瞳に溢れんばかり溜まった涙は、すぐにでもこぼれてしまいそうだった。
「「「…………」」」
目の前の状況に、全く思考回路がついていかない陽二達。
お互いがお互いに顔を見、ゴクリと息を呑む。
「つ…司か…?」
恐る恐る陽二が声をかけてみると、司はコクリと頷く。
そして耐え切れなくなったのか、それとも子供の姿になったため涙腺が弱くなったのか。
滝のように涙を流し、泣き出してしまった。
「みんなぁ〜…ワシ、一体どーしたらえェんじゃぁ……」
びええ〜!と大声を上げる司。
だが陽二は慌てて、司の口を押さえつけた。
「こ、このバカッ!今の時間帯、考えェや!」
「ご…ごみぇん……」
司がやっと静かになったのを確認すると、陽二は押さえていた手を外す。
だが、頭がこんな姿になってしまっては、これから先が困ったものである。
「で、どうするんなぁ?このままじゃと、喧嘩売られても勝負にならんど?」
煙草に火をつけ、大きく息を吐きながら寿が溜息混じりに言う。
「そがなちまい体じゃあ、単車にも乗れんわいや。」
寿の言葉に頷きながら、エイジも言う。
「じゃがのぉ…なんでそがな姿になったんじゃい。今まで普通にしとったろォがいやぁ。」
「んん〜…実は、ワシもよぉ分からんのじゃ…朝起きとったら、こがな姿に……」
しょんぼりとうな垂れ、司は小さく溜息を吐いた。
◆ ◆ ◆
「で?何で商工に行かにゃいかんのじゃい。」
「いやあ…昨日、最後に来たのがココじゃったんよ。」
陽二の車に揺られ、司が行きたいと言い出した場所は商工。
海風が優しく頬を撫で、清らかな気分にさせてくれるこの場所。
司は大きく伸びをすると、ひとつのテトラポットの上によじ登った。
「いやぁ、良い景色じゃねぇ!」
「……よいよ、のんきな奴じゃわい。」
まあ、それが司の良い所なのか。
陽二は小さく笑みを浮かべ、司のよじ登ったテトラポットの隣に並ぶ。
海を見ると、日の光が海一面に反射し、キラキラと星屑のように輝いていた。
「司ぁ、その姿…段野やヒロに見られちゃあマズイど?ただでさえ体格が違うんじゃけェ。」
「そぉじゃねェ…確かに困るゥいやぁ、ホンマぁ……」
危機感を感じていたのか、司も苦笑する。
さてと、と息を吐き司はテトラポットから降りようとすると、その場からフッと姿を消した。
「?!」
急に隣にいたはずの司が消え、陽二は目を白黒させる。
慌ててキョロキョロと辺りを見回すと、自分の足元からバタバタと物音が聞こえた。
「陽ちゃぁ〜ん!!助けてぇぇ!!」
なんと、司はテトラポットの間に挟まれ、ジタバタともがいていた。
自力で出られないのか、まるで九死に一生のように必死だ。
「な…何やっとんじゃい!司ぁ!!」
陽二は慌ててそこから引っこ抜いてやると、よっこらせと司を抱きかかえる。
子供の姿だからだろうか、軽くて柔らかいその感触。
子供なんて抱きかかえたことがないから、尚更だった。
「よいよ、危なっかしゅーて見とれんわいや。」
やれやれ、と溜息を吐き、陽二はポム、と司の頭を撫でる。
抱きかかえられた司は、すまんねーと頭を下げていた。
2007/2/12
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