鬼浜Normal

□彼らが俺にくれたモノ
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 1週間前くらいから…俺はみんなに避けられているような気がする。
 久しぶりに、リュウジの家に遊びに行っても良いか?と訪ねた時もそうだった。

「えっ?!俺ん家にか?!」
「都合悪い?」
「え、あ…いやな、俺ん家この時期になると忙しくてよ…そ、そのなぁ……」
 一体、この動揺は何なんだ?
 明らかに、今のリュウジは挙動不審になっている。
 俺が目を合わせようとも、リュウジはすぐに逸らしてしまう。
「ねえ、何か俺に隠してない?」
「そ、そんなことねェぞ!!」
 そんな目が泳いだ状態でいわれても、まるで説得力がない。
 リュウジは表情に出やすいから、すぐに分かっちゃうんだよな。

「ふーん…じゃあいいや。」
 無理強いさせてもしょうがない。
 俺はクルリときびすを返し、さっさと教室を後にする。
 だんだんとこみ上げる苛立ちが、俺の心を支配しそうだったから――



「すまねェな、ハヤト……」
 ポツリとつぶやいたリュウジの言葉に、俺は気づくことはなかった。




 ◆ ◆ ◆




 今日は11月15日。
 どことなく、今日はいつもより寒い気がする。
 雪を降らせるような、どこかどんよりとした空。
 冷たい風が俺の頬を掠めていき、冷たさより痛さを感じる方が先だった。

「あーあ…学校行きたくない気分……」
 ふう、と溜息を吐けば、白い息が空に舞い上がる。
 俺もこんな風に飛んでいけたらいいのに。
 そんなアンニュイモードの俺に構わず、後ろから元気の良い声が俺を呼んだ。

「ハヤト!おはよう!!」
 走ってきたのか、リュウジは少し息が乱れている。
 やけに爽やかな笑顔は、今の俺には眩しすぎた。
「おはよう……」
「お、元気ないな?」
 誰のせいだよ、誰の。
 そう思ったが、あえて口に出さないようにする。

「あ、今日は学校終わったら、俺んちに集合な!」
「え…?」
 わけが分からず、俺はキョトンとする。
 なんで、今日に限ってリュウジの家に集合なんだ?
 俺の心情を悟ったリュウジは、苦笑するとやれやれと肩を落とした。
「ハヤト、お前…すっかり忘れてるな?今日は誕生日だろ?」
「誕生日…誰の?」

 俺の言葉に、リュウジは思い切りズッコケた。
 だって、本当に分からないし。
「お前なぁ!――ったく、今日はお前の誕生日だろ?」
「俺…の?」
「おう!」
「じゃあ、みんなが俺を避けていたのは……」
「誕生日を祝う、準備をしてたんだ。――悪かったな、ハヤト。」
「リュウジ……」
 みんなの優しい心遣い。
 この時って、やっぱり仲間って良いなぁと思う至福の時だよな。
 この歳になっても、やっぱり嬉しいと素直に思う。

「でな、俺…ハヤトに何やっていいか分かんなかったから…迷った挙句――」
 ガサゴソと鞄の中をあさり、中から飛び出したのは、中くらいの茶色い紙袋。
 さりげなくラッピングをしているのは、リュウジの気遣いだろうか。
「冬限定だけどよ、良かったら使ってくれや!――誕生日おめでとう!ハヤト!!」
「あ、ありがとう……」

 照れくさいのを隠しながら袋を受け取り、中を取り出してみると、
 中身は水色のシンプルなマフラーだった。
 マフラーの端の方には、俺のイニシャル入りだ。
 手触りも良く、市販品にしてはやけに手の込んだマフラーだった。
「これ、市販品にしては手が込んでるね。もしかして…リュウジが編んだとか…ないよね?」
「店に良いのが無かったからよ、この際自分で編んだ方が良いと思ってな。――な、それつけて見ろよ!!」
「あ、うん……」
 リュウジの意外性に驚きながら、プレゼントされたマフラーを身につけてみる。
「うわぁ…凄く暖かいや…ありがとな、リュウジ。」
「へへっ、良いってことよ!」





 学校が終わった後、リュウジの家で俺の誕生日パーティーを開いてくれた。
 リュウジの家にはおなじみのメンバー、ノブオやダイゴも揃って。
 この歳になって、誕生日パーティーって言うのは照れくさいけど。
 やっぱり、誰かに祝ってもらえるって心地良いよな。
 改めて、俺はこの4人と一緒で良かったって…そう思う。
 ずっとこのまま…このまま何も変わらず、4人で仲良くやっていけたらいいのに。





 ◆ ◆ ◆





 誕生日が終わり、次の日。
 新聞を取りに行こうと、ポストを上げると、シンプルにラッピングされた白い袋が入っていた。
「あれ?何だろ、これ……」
 一緒に付いていたカードを見ると、どうやら俺宛らしい。
 ご丁寧に、“Happy BirthDay”と書かれてある。
 どうやら俺の誕生日を知っている奴らしいな。
 差出人が書かれていないので、誰が置いて言ったかは不明だ。
 とりあえず、俺宛になっているので開封してみる。

「あ、しっぽのアクセサリーだ……」
 俺が特攻服を身に付ける時、いつも付けているしっぽのアクセサリー。
 そう言えば、大分長いこと付けていたから、ボロボロになりかけだったっけ…。
 見知らぬ誰かの、心遣い。



 ――まあ、それが誰かは見当がつくけどね。


 2006/11/16


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