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□Do not be troubled alone
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 たまに夢を見る
 それは自分が中学生だった頃
 感じるままに動き
 やり所のない爆発する力をぶつけ
 ただ独りで彷徨っていたあの頃を――


「どうしたよ、アキラ?」
 アキラの異変に気づいた江口は、彼に声を掛ける。
 その声に、アキラはハッと顔を上げた。
「い、いえ…何でもないっス……」
「そうか?なら良いけどよ。」
 言って、江口はマル達とのお喋りに夢中になる。
 アキラはそんな姿を眺めながら、小さく溜め息を吐いた。



 居るはずなのに
 みんなが居るはずなのに
 どうしてこんなに遠いんだろう

 なあハラサー
 俺は間違ってないよな?

 なあサクライ
 俺はここに居ていいんだよな?

 なあマル
 俺はちゃんとした湘爆の一員だよな?

 ……江口さん
 俺はあなたの右腕――親衛隊長ですよね?



(そうさ…俺は族の中の族、あの赤星背負ってンだよ……)
 湘南爆走族の証である、赤星を背負っている――
 だが、そうだと分かっていても何だか違うようで。
 もしかしたら、違うのではないかと錯覚を起こしてしまいそうだった。




「アキラ!」
「っ?!」
 江口の大きな一声で、アキラはビクリと肩を竦める。
 慌てて振り向くと、そこにはムッとした表情の江口の姿があった。
「そこら辺、軽く流しに行くべェぜって…さっきから言ってんだべが。」
「あ…スンマセン……」
 アキラは慌てて立ち上がり、メットを掴む。
 そして、さあ外へ出ようとしたのも束の間。
 動きは、江口の掴む手によって止められた。

「江口さん…?」
「……アキラ、ちーっとばかり話そうや。」
 言って、江口はまたアキラを椅子に座らせる。
 訳が分からないアキラは、されるがままになっていた。
「あの…マル達は良いんスか?」
「おう、先に行ってもらってっからな。」



「………」
「………」
 二人の間に沈黙が流れる。
 気まずい空気に戸惑うアキラを余所に、先にその沈黙を破ったのは江口だった。
「アキラよぉ、最近集会でもつまんなさそうだな。楽しくねェべ?」
「い、いえ!そんなワケないじゃないスか!」
 アキラがそう言うも、江口は疑いの眼差しで見つめてくる。
 そんな彼に、アキラは小さく苦笑した。
「俺、そんなにつまんなさそうスかね?」
「おう。何て言うかよ…一人だけ輪からはみ出してるって感じだべな。」

 どうしてこの人は、こんなに鋭いんだろう。
 流石とでも言うべきなんだろうか。
 だが今だけは…いや、彼にだけは気づいてほしくなかった。
「その通り…なんか?アキラ。」
 黙りこくっているアキラに、江口は静かに問いかける。
 これ以上黙っていても、その内に分かってしまうだろう。
 アキラは小さくコクリと頷いた。


「……アキラ、オメェ…まだ分かってねェんか?」
「え…?」
 突然のどこか怒りを含む、江口の低い声。
 急な事で戸惑うアキラを余所に、江口は彼を見据えたまま話を続ける。
 江口のその鋭い瞳に、アキラは思わずゴクリと息をのんだ。
「オメェとタイマン張った時…俺ァ、全てを伝えたつもりだよえ。俺の想いが伝わったから…だから、オメェはここにいる。違ェか?」
「………」



 その通りです――
 あなたの想いは
 俺の汚れた心を打ち砕いてくれた
 今までのことが間違ったんだって
 ちゃんと気づかせてくれた
 こんな俺の目を覚まさせてくれたのに
 俺は――



「まあ、オメェが過去で何があったか知らねェがよ、これだけは言っとく。」
 江口はふわりと笑みを浮かべ、静かにこう言った。





「独りで悩むな。自分に自信が持てなくなったら…いつでもいい、頼ってこい。俺ら、仲間だべ?」





 どうして。
 どうしてあなたは、欲しかった言葉を簡単にくれるんだろう?
「…っ…江口、さん…っ!」
 止まることを知らないかのように、アキラの瞳からは涙が溢れ続ける。
 そんな彼に、江口は一瞬驚いたが、小さく笑みを浮かべポンポンと頭を撫でてやった。



 湘南爆走族――
 自分の居場所は間違っていなかったんだ
 暖かい仲間に
 尊敬するリーダー
 俺は一生、この人に着いていこうと改めて誓った――

 2008/04/28


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