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□光と影のRock'n Roller
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「アッキラー!どこ行ったべー?!」
 校内に江口の声が響き渡る。
 周りの生徒達も、何事だと首を傾げながら彼の様子を眺めていた。
「おう、マルよぉ。アキラ見なかったべ?」
「さあ…今日は全く。」
「……そーか。」
 言って、江口はどこか寂しそうに背中を丸めながら、その場を立ち去っていった。
 そんな彼の姿を、マルは複雑そうに眺めていたのだった。


「後は…サクライとハラサーにでも聞いてみんべーか……」
 溜息を吐きながら、江口は楽しそうにお喋りしている二人に歩み寄る。
 今まで話していた二人は、突然重い空気に包まれ身を硬直させた。
 恐る恐る振り向くと、どんよりと黒いモノを背負った江口の姿があった。
「え、江口さん!どうしたんスか!?」
 突然の彼の姿に驚きながらも、桜井が問いかける。
「さっきからアキラ探してんだけどよぉ……」
「アキラを?」
「おう。全く見つからねーんだべよ。」
「そういや、朝から単車もなかったっスね……」
 思い出したかの様に、ハラサーも付け加える。


「「「…………」」」


 一瞬、三人の間に冷たい風が横切っていった様な気がした。
 それが合図の様に、何かを悟ったのか江口は一目散に外へと向けて走り去っていった。
「サクライ…今のはちょっとマズかったか?」
「江口さん、ああ見えて鋭いからな……」
 互いに顔を見合わせ、二人は苦笑せざるを得なかった。
 忽然と消えた友に合掌をしつつ……



 ◆ ◆ ◆



 海岸通の国道を、一際大きく爆音が風の様に通り過ぎる。――江口のマシンだ。
 鋭い目を光らせ、彼はアキラの姿を探していた。
「クソッ…見つからねー……」
 メンバーが一人でも欠けてしまうと、何だか寂しく感じてしまう。
 いつも五人でいるのが当たり前だったから――
 いつも一緒に居ろなんて、自分のエゴだって分かってる。
 けれど、ひとりぼっちは嫌なんだ。いつもの1/5だから。

 特に――アイツがいなくなるのは尚更。



 ――オオォォン…ッ!!



「!!」
 突然、離れた所から単車の音が聞こえた。
 いつも耳にする、心地良い音。そしてあの独特な爆音……
(アキラのマシン!!)
 パアッと表情を明るくさせ、江口は急いで自分のマシンを起動させる。
 そして、その爆音の元へと向かって行ったのだった。







「たまにはこうして、一人で羽伸ばすってのもいいよなぁ。」
 当のアキラは、単車を走らせながら、一人満足感に浸っていた。
 全身で風を受けるこの感触。
 いつ感じても変わらない、最高のものだった。
 ただ、今日は共に並んで走る仲間がいないだけ。

「江口さんに黙って出てきたし…後で一発貰っちまうかもしんねーべな。」
 くつくつと笑いながら、アキラは速度を落とし単車を道の脇に寄せていった。
 流れてくる潮風を全身に優しく受けながら、アキラは海の向こうを眺める。


 今まで独りだったから、独りは慣れているはずだった。

 けれど彼…江口さんに出会ってからは、毎日が楽しくて。

 そして、いつも五人でいるのが当たり前になって――

 今では独りになるのが、少しだけ怖くなった気がした。




「ア〜キ〜ラ〜!!」
「!!」
 突然の声に勢いよく振り向くと、そこには閻魔大王の如し気迫が漂う江口の姿が。
 彼のその姿に、アキラは背筋が冷たくなるのを感じた。
「え、江口さん…どうしたんスか…?」
「どうしたじゃねーべ!アキラぁ!!」
 江口はクワッと歯をむき出したかと思いきや、アキラの首をギチギチと締め出した。

「く、苦しいっスよ!江口さぁん!!」
「俺に黙って出るからよ!バカモノめ!!」
 そう言う江口の表情は、どこか嬉しそうで。
 首を絞める力加減も、アキラは本気ではない様に感じた。


 ――フッ……


「?」
 突如首を絞める力が緩まり、アキラは目を白黒させる。
 一体どうしたんだと顔を上げ振り向くと、顔を曇らせた江口の姿がそこにあった。
「頼むからよぉ…俺に黙って出ンじゃねーべ……」
「え…江口さん…?」
 江口の意外な言葉に、アキラは驚きを隠せない。
 いつも威風堂々としている彼から、まさかそんなに弱々しい言葉が出るなんて。
 アキラがそんな事を考えていると、急に全身に力強い感触と温もりが伝わった。
 自分の身に何が起こったかは、すぐに理解できた。

 ――アキラは江口に抱きしめられていたのだ。


「っ?!」
「……おめーは血の気が多いかんな。俺の知らねェ所で怪我作ってきやがる。おめーのそういう所、俺ァ凄え心配なんだべ?」
 抱きしめていた腕を解き、江口はくしゃりと苦笑する。
 その表情に、アキラはドキ、と胸が高鳴った。
「おめーは、俺に黙って勝手に出ねェこと。良いけ?」
「オス……」
 すぐに返ってきた返事に満足したのか、江口はアキラの頭をポンポンと頭を撫でる。
 アキラはその大きな手の感触を感じながら、照れくさそうに笑みを浮かべた。

「うっし!アキラ、このままそこら辺流しに行くべーぜ!もちろん、着いてくるよな?」
「当たり前っスよ!江口さん!!」
「へへ、そうこなくっちゃーよ!!」
 互いにニッと笑みを浮かべ、眠っていたマシンを叩き起こす。
 今まで静かだった辺りに爆音を響かせ、一瞬で賑やかにさせた。

「出遅れんじゃねーぞ!アキラぁ!!」
「そんなヘマ、しねーっスよ!江口さん!!」
 湘爆の光と影の二人――
 湘南の海岸を震わせる二つの爆音は、優しく流れる潮風を追い越し一気に駆け抜けて行った。

 2008/01/19


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