□四魂の玉の噂
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「どうして泣いてるの?」

「お腹がすいたよ〜!」

少女の問いに、泣いていた小さな女の子が答える。



少女は周りを見回した。

畑の野菜は枯れ、荒地と化していた。
川の水はなくなり、所々に水溜りが残っているだけ。地面は小さくひび割れ、空では太陽が熱くかんかんと照っている。



「ここ数ヶ月、日照りが続いていて草木も水も枯れ果ててしまっておるのです。もう貯めていた食料も底をつき始めていて……」


女の子の父親らしき人が言う。



「それなら私に任せて」


少女は腰の巾着から種を取り出した。


魔法の種────
彼女がそう呼んでいるその種は、虹珠草(こうじゅそう)の実からとれた種だ。

虹珠草は、成長するとその名の通り虹色の実ができる。その実からとれた種は、植えると自分の思い通りの植物になのだ。
これは、ある妖怪からもらったもの。


────「これを持っていけ…」

そう言われて受け取った虹珠草の種。
この種をくれた妖怪のことは覚えていない。

あの時は、必死に“何か”から逃げていたから。
それが何なのかは覚えていないが、とても怖くて、捕まってはいけない、逃げなければならない、そう思っていた気がする。
この種を使う度に、あの記憶は何だったのだろうと考えてしまう。



「……」

「…あの」


村人の声で少女は我に返った。


「あ…ごめんなさい」


少女は持っていた種を畑にまいた。

スッと目を閉じる。
そして、畑の方に両手をかざし、意識を集中させた。

すぐに畑が薄桃色に包まれ、中で植物が芽を出し始めた。
その植物はどんどん成長していき、やがて色々な野菜になる。



「おお!」


村人達の間から感嘆の声が上がった。





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