愛しているから
□新しい生活
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この時代へ来てから、環境の変化に対応する力がついてきたように思える。
元の時代ではずっと同じ生活をしていたが、ここでは色々な場所へ行って、たくさんの出会いがある。毎日予測できないことばかりだ。
初めはそれが目まぐるしく思えたけれど、いつの間にかすっかり慣れてしまった。
もうよっぽどの事でなければ受け入れられる自信がある。
「あ、美麗ちゃーん!」
遠くから声が聞こえて美麗は顔を上げた。
かごめだ。
小走りで駆け寄ると、かごめは中身がぎっしり詰まったエコバッグを差し出した。
ポリエステル製のその袋に描かれたスーパーのロゴに懐かしさを覚える。
「はいこれ頼まれてたやつ。タオルとお菓子とロウソクと……」
袋の中身をゴソゴソと確認するかごめ。
横で美麗も一緒に袋を覗き込む。
「あと……あ、あった!これね!」
取り出されたのは白くて甘い調味料。
そう、砂糖だ。
「ありがとう!」
「砂糖なんか何に使うの?」
「それは……」
かごめの問いに美麗は言葉を詰まらせる。
戦国時代、砂糖は外国からの輸入でしか手に入らない貴重品だったとどこかの本で読んだことがあった。
美麗の持っていたお金はこの時代では使い物にならない。だから砂糖を売ってお金を手に入れようと思ったのだ。
「え、それって……いいの?」
「…ダメ、だと思う……」
当たり前だ。どこかのネコ型ロボットが『タ〇ムマシンを金儲けに使っちゃいけない』と言っていたが、まさにそれと同じようなことをやろうとしているのだから。
これでは弥勒のインチキお祓いよりよっぽどタチが悪い。
だが仕事して稼いでいる暇もない。
美麗にはどうしても買いたいものがあったのだった。
今回だけ。そう念押しするとかごめはしぶしぶ納得してくれた。
レシートとお釣りを受け取り、美麗は殺生丸達の元へ引き返した。
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