愛しているから

□やってきたのは戦国時代!?
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私は、学校の帰りが憂鬱だった。



教室のチャイムが鳴り、生徒がぞろぞろと教室を後にする。
その中で、一人浮かない顔で教科書をカバンに詰める少女がいた。


「美麗ちゃん、一緒に帰ろう!」

「うん」


美麗と呼ばれた少女は、笑顔を作って答えた。
友達と一緒に帰れるのは嬉しい。だが…

校舎を出た2人は、生徒の流れに沿って正門へと向かった。
美麗はその先に、自分の心を沈ませる原因を見つける。


「……」


そこにいるのはスーツを着たがっしりとした体型の男。
いわゆる“ボディガード”というものである。


パパがこんなのを頼まなければ……!

美麗は心の中で父親に文句を言った。
車での送り迎えが嫌だと言ったらこの有様である。過保護なのか常識知らずなのか……。



美麗の父親が経営する会社は、食品からホテル、ネットサービスまで、あらゆるジャンルに進出している大企業。
そのため家は当然お金持ちで、東京の豪華な邸宅の他にも国内外に複数の別荘を有している。

美麗はその一人娘────つまり、れっきとした“お嬢様”という訳だ。

美麗は自分から家のことを話そうとはしなかったが、母親が九条邸でお母さん同士のお茶会などを開いてしまったおかげであれよあれよという間に噂が広まってしまったのである。

そのせいで学校でもかなりの視線を感じたり、美麗が廊下を通ると自然と道が空いたりする。
本人は、普通に仲良くして欲しいと思っているのだが。

とにかく、美麗はボディガードなんか気にせずに友達と楽しく帰りたいのだ。



「どうしたの、美麗ちゃん?」


美麗のため息を聞いて、友達の美優が訊ねる。


「ううん。何でもないの」


美麗はそう答えたが、実際のところ何でもないわけではなかった。


はぁ……

今度は美優に聞こえないよう、心の中でため息をつく。


美優はずっと好きな人のことを話していたが、真面目に聞く気になれなかった。
後ろに思いきり聞いている人がいるというのに、気にしないのだろうか。

しばらくぼうっとしていると、突然美優が質問をなげかける。


「ねぇ、美麗ちゃんはまだ好きな人できないの?」

「えっ?」


いきなりの質問に一瞬戸惑う美麗。しかし、答えはすぐに出た。


「いないよ。いないっていうか、わからないの。“好き”っていう気持ちが」

「えー!わかんないの?結構単純だよ、“好き”って。例えばさ、何度もその人の事考えちゃったり、ふとした時に会いたくなったり」


美優は続ける。


「意外とそういう人っているもんだよ。気づくのに時間がかかるかもしれないけどね」

「ふぅん……」

「そういうの、ない?」


そう聞かれて、美麗は自分の記憶を辿ったが、考えてみても今までにそんな気持ちを味わったことはなかった。
元々美麗は異性とよく話す方では無かったからかもしれない。

そんなことを考えていると、美優の家の前についた。


「あ、もうついちゃった。また明日ね」

「明日は土曜日でしょ」


美麗がツッコミを入れると、美優は「そうだった」と言って笑った。


「じゃあ、月曜日に」


美麗がそう言うと、美優はまたねと手を振って家の中に入っていった。




「ただいまー!」という元気な声と共にドアが閉まると、美麗は自分の家へと歩き出した。

改めて周りを見回すと、かなりの人がチラチラと美麗を見ている。
その原因は言わずもがな、ボディーガードの存在であろう。

これじゃ寄り道もしづらいし……


「はぁ」


美麗は本日何度目かのため息をついた。




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