オベリスク
□その1、授与式。
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いつからか、この現実は夢なんじゃないかと、思うようになっていた。
01-01
毎朝嗅ぐ病院の独特な匂いには何年経っても慣れない。
枕元にあるテーブルの花瓶には毎朝違う花を活けている、この部屋だけでも花の良い香りに包まれますようにと願いながら、この子が目覚めて最初に見るのが無機質な部屋ではなく、枕元の色鮮やかで美しい花でありますようにと。
『もう私も高校生だよ、月日が経つのって早いよね。』
眠っている彼の髪の毛に触れてみると返事はなく、聞こえるのは人工呼吸器と心電図モニターに点滴の音だけ。
早く、目を覚まして。
そう祈りながら瞼を閉じる、瞳の奥では幸せな映像と悲しく苦しい映像が流れている。
『雄英に行く事になったよ。ヒーローへの第1歩をやっと踏み出せた感じ…』
「流琉花ちゃん、そろそろ行かなくちゃダメじゃない?」
ドアが軽いノックと共に開かれそこからは担当をしてくれている看護師さんが入ってきた。
私は腕時計を見て彼女に口を開いた。
『まだ余裕あるからもう少しだけ……』
「初日に遅刻しちゃダメじゃないかな?中学の時それで何回遅刻したのかな〜?」
『う、本当に今日は余裕だもん…』
「ダメ!もう高校生なんだから、ちゃんとしなさい!」
彼女は昔から姉のように私に接してくれている、確かに中学では結構遅刻をしてしまったし、流石に高校で遅刻はしない様にしなくては……私は椅子から腰を浮かせてカバンを持ち上げた。
「エラい!頑張っていけ!高校生!」
『はーい』
私はベットに眠る弟に『またね』と別れを告げ、ドアに向けて足を動かした。
「弟くんは任せなさい!」
力こぶを作るようにポーズを取る彼女に私は胸から優しく、暖かい気持ちが込み上げた。
『よろしくお願いします』
-ガラッ-
多分個性で体が大きい人が困らない様にと考えられたであろうドアを開けて中に入ると誰もおらず、私が一番乗りで教室に来たらしい、もう少し病院にいれば良かった…そう思いながら窓を空け黒板に貼り出されている席順を確認し、自分の席に着いた。
あー、窓から入る暖かな風が気持ちいい。
キラキラ光る陽射しに目を瞑った。
高校生に、なりました。