□Episode1
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「これだけあれば十分かな」

依頼された毒草を数束、鞄にしまいこむ。あとは依頼主に届けるだけだ。もう少しで、このけだるい太陽ともおさらばできる。

「よし、っと――」

「おい、大丈夫か!」

立ち上がると同時に目の前の景色が歪んだかと思うと、次の瞬間には誰かの声と腕が背中に当たるのを感じた。足に力を込め、なんとか踏みとどまる。

「あ、だ、いじょうぶ…」

触れ合った背中をかばうようにその人から離れると、声の主は怪訝そうな顔でこちらを見てきた。

「いや、明らかに大丈夫そうには見えないんだが…」

眩しい白。澄んだ青。私の苦手な、朝の色。

思わずくらりとした。
いきなり地面に座りこんだ私を支えるようにして一緒に身をかがめると、彼は俯く私を心配してか顔を覗きこんできた。

「―――っ」

息を飲んだのは私のほうだったのか、彼のほうだったのか。

「…変わった瞳を持ってるな?」

…見られた。
いや、わかっている。今までも、どこにいたって見られていた。気づかないふりをしていたのは自分だ。
でも、今回は…。
気づかないわけには、いかない。

「ぁ…え、っと…」

何をどう返そうかと思い視線をずらす。
辺りは静まり返っているのに、私の鼓動だけがうるさい。何か、何か言わないと。
その時、日の光に反射して一際眩しい光が視界に映った。

「…!ごめん…っ!」

返事を待つ彼の肩を地面に張り付けるようにして押し倒す。先ほどまで彼がいた場所には、鈍色の先端が深く刺さった私の腕があった。

矢だ。

しかもただの矢ではない。これは…。

「……毒矢…?」

全身から力が抜け、急激に意識が遠のく。
目を閉じるまでの数秒間、彼は何かを叫んでいたような気がする。
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