□Episode1
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「…っ、あいつら…もう…、追ってこない…?」

昨夜請け負った仕事は、タンバルン国境付近の森のみで生息する希少な毒草の調達依頼だった。雑多な依頼のなかでかなり楽な位置に分類されるそれは、報酬が極めて少ないため同業者たちには相手にされなかった。元々日中に行動することが苦手な私は、時間帯の制限がなく身の危険も少ないその依頼を二つ返事で承諾し、夜の森へと足を運んだ。
そこまでは良かったのだが迂闊だった。夜の森だからと気を抜いていたせいか、背後から近づく人の気配に気づくのが遅れてしまった。
相手は若い男が二人。両者とも目と鼻以外は布で隠れており一目見ただけで賊だとわかった。

「なにやってるの?…お嬢ちゃん」

目元をにやりと歪ませながら確実にこちらへと歩みを進める彼らに背を向け、私は木々を伝い駆け出した。しかしそれがまずかった。私をただの迷子ではないと確信した彼らは良い獲物を見つけたと言わんばかりに追いかけてきたのだ。


そして今に至る。もうすっかり夜が明けてしまった。長い追いかけっこに一区切りをつけた私は毒草の探索を再開することにした。

「まぶしい…」

まだ浅いが太陽が照り始めている。日の光は苦手だ。長らく夜間の仕事ばかりをしてきたせいか、私にとってそれはあまりにも遠い存在になってしまっている。私はもう、この光の下で生きるべき人間ではないのだと思う。帰りたい。早く依頼を済ませてしまおう。
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