春日山城

□生と死
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凍えるような目が私を見下ろす
何人も拒絶するような鋭い視線の先に映る私は一体どんな顔をして貴方を見上げているんだろう




「俺は戦では、死なん」




切り捨てるように言い謙信は踵を返して私を置き去りにし部屋を出ようとする




「待って!」




行ってしまわないように、貴方が、どこにも行ってしまわないようにぎゅっと着物の裾を掴んだ




「なんだ」

「行かないで、お願い…
私のこと、置いていかないで」




貴方を失ってしまったら、私はどうなってしまうかわからない、私はこんなにも貴方を失うことを恐れているのに、貴方は自分がいなくなることの意味を微塵も理解していない




「お前は何を怯えているのだ?」




なだめるように、まるで赤子をあやすように穏やかな声が降り注ぐ 右と左で色の違う目がまっすぐに私を見つめるように少し屈んで私の顔を覗き込む




「俺がお前を置いてどこかに行くなどありえん
俺は、お前を永遠にこの手の中に置くために戦うのだ わかるな紅?」




頬を手で包まれ謙信から視線を逸らすことを許されない、御仏よりも美しい顔が間近で言葉を紡ぐというのはこんなにも苦しいのかと思う
息をするのも忘れてしまうほど、謙信に魅了される




「俺は、戦場では死なん
ましてや、愛しいお前を遺してなど逝くわけがない
お前はなんの心配もせずにここで俺の帰りを待てばよい、戻ったら好きなだけ構ってやるから」




そう言い、謙信は私に口づけをして今度こそ部屋を出た
軍神、上杉謙信 私の愛しい人で無くてはならない人




貴方は無類の戦好きでいつも死に最も近い場所にいる、でも貴方は神と恐れられるほど戦を愛し、そして戦に愛された人、貴方は戦場では死なない




死に最も近くて、そしてもっと遠い貴方




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