春日山城

□生きて
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鳴り響く銃声
たくさんの馬の蹄の音
人の動きが地鳴りのように迫ってくる
刀と刀がぶつかる甲高い音
断末魔、叫声、血の匂い、土煙




この戦の喧騒が
俺の血を湧き立たせる
俺は生きていると実感する
全身の血が逆流するかのような感覚
刀を握る腕に力が入る




降り注ぐ矢の雨が俺に当たることはない
俺は戦場では死なない、死ねない
目の前の敵を斬って斬って斬り捨てる
鮮血を浴び、体が汚れる




これが俺の生きる場所
俺はここでしか生きられぬ




「そんなことないわ」




女がそう言う
死人のように冷たい手を俺の頬に添える女




「貴方は、もっと温かい場所で生きるべきよ」




伏し目がちに悲しげにそう呟く女
なぜ貴様がそんな顔をする
貴様は矢も刀も弾丸も届かぬ場所で
のうのうと生きていればいいものを




「俺は戦が好きだ
戦に生き、戦に死ぬ、それが俺だ」

「違うわ」

「違わぬ」




戦場に出てあの喧騒に身を置いてる時が俺の全てだ
その瞬間だけ、俺は生を実感する
敵を斬ったときに溢れる赤い血は間違いなく俺にもながれている
心の臓は確かに動いているんだと




「貴方は、ここにいるわ
貴方はちゃんと生きてるのよ?謙信」




冷たい手を俺の胸におき目を閉じる
そんな死人のような手で触れられても説得力のかけらもない




「生きて、謙信…」




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