安土城
□味音痴
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紅は嬉しそうに笑うと、思い出したように置いてある盆に視線をうつした
「ん? それは?」
「お粥です 光秀さん、全然ご飯食べてないって聞いたので、食べやすいものをと思って」
「お前が食べさせてくれるのか?」
「! …はい、光秀さんが嫌じゃなかったら…、ですけど」
本当にからかいがいのある娘だ
少し言っただけでころころと変わる表情は見ていて飽きない
「俺はお前に看病される身だからな、おとなしく従おう」
紅は意を決したように粥をひと匙すくい俺の口元に運んだ
「熱いので、気をつけてくださいね」
「あぁ」
おそるおそる差し出された匙を口に含み、粥を飲み込む
「美味いな」
自分でも驚いた、「美味い」という言葉が自分から自然に発せられたのだから
食事など、この体を動かすための補給としか考えていない、美味い美味くないなどはあまり感じたことがなかった俺がただの粥を美味いと感じた
「! 本当ですか?!」
「お前が作ったのか?」
「はい!」
ただの粥がこんなに美味く感じるなど、体調不良とは厄介だと思いながら紅がにこにこしながら俺の口に運ぶのを素直に食べ進めた
椀の中の粥を全て食べ終える頃には、先ほどまでの体の軋むような倦怠感を忘れていた
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