安土城

□芽生え
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ある日突然現れた謎の女
どうすればこんなに楽観的で、人を疑うことをしらない単純で平和な思考回路をもつ人間が育まれるのか…




考えなしなのか、それも含めて計算尽くなのかわからない、が…まぁその言動の殆どが考えもなくただ思った通りに行動している、子どものような紅
そうかと思えばたまに核心をついてくるから、驚く




「光秀さんっ、はぐらかさないでください!
私は真剣なんですよっ?!」

「別にはぐらかしてなどいない」




いちいち感情が全て顔に出て、喜んでいるのか、悲しんでいるのか、怒っているのかが手に取るようにわかる
俺でなくとも、こいつの感情の変化なんて誰でもお見通しだろうが…そんな彼女もたまに誰にも見せずに心に何かを抱えているときもある




この女が何をどう悩んでいようと俺には微塵も関わりのないことのはずなのに、無性に気にかかることに気づいたのは最近だ、気がつけばこの女を気にかけている自分がいた




乱世に放り出せば一瞬たりとも生き残ることのできないこの非力で能天気な女に興味はあったが、それは物珍しい生物に興味をそそられるのと同じ気持ちでそれ以上の感情なんて持ち合わせるつもりなどなかったのだが…




どういうわけだが俺は、この女に惚れてしまったらしい
だが、この気持ちを気づいているのは俺だけだ
当の彼女は全く気づいてはいないだろう
ならば、そのままでいい
俺にこんな感情などいらん、まして相手が紅ならさっさとこんな感情は捨て去るべきだ




俺には、この女は眩しすぎる
これまで陽の当たるところで、皆から愛され大切に平和に育てられてきたであろう彼女と俺はあまりにかけ離れている、こんな俺にあんなに眩しい紅は似合わない




だから、早くこんな感情は捨てなければ…
どうしてだ…どうして、こんなに胸が軋む
あの平和ボケした顔が、健気な姿が、ひたむきな姿勢が、どうして俺に向けられるだけでこんなに胸が痛む




あぁ、そうか、これが惚れるということなのか
いつの間にこんなに、愛してしまっていたのか…
だがまだ彼女にこの気持ちを悟られるわけにはいかない
いや、むしろこの先決して明かすことはないだろう
俺と紅の人生が交わることなどない
お前は世の中の汚れを知らずにはそのままでいろ…




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