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□あなたがいない世界
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華やかな花火の轟音が、藍色の空に呑み込まれ。熱気の篭っていた会場から、人々の喧騒が消え、静寂が支配する。
ミズキは、茫然と立ち尽くしたまま動けないでいた。
「お〜い、ミズキ。おまえのチームメートはとっくに帰ったんだろうが。何居残ってんだよ?」
シェンの呼び掛けにも反応を示さないミズキに、デュオロンが繊細な顔を顰める。
「ミズキ、大丈夫か?気分でも悪いのか?」
「…わかんない…」
「大会が終わって気が抜けたんじゃねぇの?」
「…わかんない…けど…やだ…すごく嫌な感じ…」
胸の奥から、大切なものがなくなってしまったような、酷い喪失感と憔悴感。
「シェンとデュオロンだって、なんでいつまでも此処にいるの…?」
「……」
暫し無言のシェンとデュオロンの間に重い空気が流れる。
「なんでって、約束…」
シェンが何かを思い出したようにそう呟くと、電気に弾かれたようにミズキが突然走り出した。
「おいっ、ミズキ…!どこ行くんだよ?!」
約束…!
そうだ。約束したんだ。
彼と。
人の波を掻き分け、路地を抜けると、路地裏にある格闘の練習場に来ていた。
「アッシュ…!」
朧げなアッシュの姿がそこにあって、彼は儚い笑みを浮かべている。
「ミズキ」
「アッシュ…?どうして…こんなことに…」
「ご先祖様を消しちゃったからネ…たぶんボクは」
「…あなたが消えるなんて…嘘でしょう…?!」
「ミズキとの約束果たせなくてごめんね」
「そんな、嫌っ…」
「ミズキと、もっと一緒に過ごしたかったんだけどネ」
「アッシュ…私だって、これからだって、ずっとアッシュと一緒にいたいよ…」
「ごめんね、ミズキ。もう時間がな…」
「アッシュ…っ?」
「嫌…っ…行かないで…!アッシュ!」
砂が風に流されるように、アッシュの姿が消えてゆく。
「アッシュ、アッシュ…嫌…っ…」
世界からアッシュがいなくなり。
全ての人々の記憶からアッシュが消えた。
シェンやデュオロンといつものように、ふざけたり、笑い合う。
時々、何かを懐かしむように、二人が寂しそうに溜息を零す中。
ミズキはアッシュの残したカチューシャをそっと握り締めると、彼らに聞こえない声で囁くのだ。
「約束。待ってるから。いつかね」