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□面倒はキライ
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ボクがマニキュアを塗っている間、ミズキはずうっと不機嫌そうなんだ。

「ねぇ、アッシュ、まだなの?出掛けるんじゃなかったの?」

「出掛けるよ。だからこれ塗ってるんじゃない?」

「どうして、今なのよ?」

「だって、先っぽが少し欠けちゃったんだ。みっともないのはイヤだからね」

「時間、間に合わなくなっちゃう…」

「大丈夫だよ」

「そんなに大切なの?」

「うん。大切だよ。そんなこと訊かなくても分かってるでしょ?」

「アッシュは、爪とあたし、どっちが大切なの…?」

「それはもちろん、ボクの爪の方だヨ」

わざと意地悪く微笑んで見せれば、ミズキは怒ったような泣いたような顔をした。

ああ。ミズキのそういう顔、けっこう好きだな。

「もう、アッシュなんて知らない…!あたしは、あたしのことを一番に思ってくれる人がいい…!」

ドアを盛大に鳴らして、ミズキが部屋から出て行った。


ほんと、女の子って、面倒くさい。

我儘で、自己顕示欲が強くてさ。

誰だって自分が一番好きなのはあたりまえなのにね。



「やれやれ」

マニキュアが乾き切らないうちに、立ち上がると外に出た。

西の建物の淵に燻る夕陽が沈みかかっている。




ミズキは、三角地帯の小さな公園でブランコを揺らしていた。

「ミズキ、陽が暮れちゃうよ?映画観に行くんでしょ?」

「…」

「ミズキの好きなカンフー映画だよ」

ミズキがブランコを降りると、おずおずとボクの側に来る。

「行く…から」

「ねぇ、アッシュ…手を繋いで」

「ダメだよ。マニキュア乾いてないからネ」

手の指をミズキの前でヒラヒラとすれば、彼女はムッとして口を尖らせる。

その唇にチュッとキスすれば、ミズキが頬を紅く染めた。

「ア、アッシュ…!今の不意打ち、ズルい…!」

「フフ…面倒くさいんだけどさ、ミズキは可愛いからネ」

好きだよ。と、耳元で囁けば、ミズキはいっそう真っ赤になった。

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