小説

□恋人がいますが、他に好きな人がいます
1ページ/3ページ

「お前、カラ松のこと好きだろ」
俺が墓まで持って行こうと悩んでいた秘密を、おそ松兄さんは平然と述べてみせた。
「な、何言ってるの。そんな訳ないでしょ」
隠し通さなければ、このクソ長男のことだ、ネタにされるに違いない。
「俺が誰よりも嫌ってるの、兄さんも知ってるでしょ?クソ松なんか大っ嫌いなんだけど」
「お前が誰よりもカラ松大好きなの、俺は知ってるよ」
抵抗するも、空しい努力だった。
「何が目的だあああ!?金か?金なのか?いくら払えば気が済むんだよ!!?」
「お、落ち着けよ!どうこうするつもりはないから」
兄さんには何もかも見透かされているような気がする。
それは助けられることもあるけれど、都合が悪いこともある。
今がそう。
「告白しないの?」
「えっ、す、する訳ない」
「ふうん」
ふうん、って。
この人は何が言いたいんだろう。
「あのさ、お願いだから、誰にも言わないでくれない?ほんとに、何でもするから」
「大丈夫、大丈夫。そんなことしないって」
どうにも信用ならない。
「その代わり」と続けたおそ松兄さんの言葉を恐る恐る待つ。
「俺と付き合ってよ」
「へ…?」
どういうことだ?
「俺、クソ松が好きなんだけど…」
「うん。それを前提としてでいいから俺と付き合ってよ」
「…なんで?」
「俺は一松が好きだから」
やっぱり平然と、さほど重要でもないことみたいに、おそ松兄さんは言った。
「俺をカラ松に重ねて見てくれればいい。カラ松の代わりにしてくれればいい。だから、駄目?」
まさか自分の他にホモでしかも近親相姦の奴がいるだなんて。
俺だけじゃなかったんだ。
少し安心した。
同時に自分が兄弟からそういう意味の好意を向けられてみると…悪いけれど気持ち悪いと思ってしまう気持ちも少なからずある。
俺がカラ松に好きだと伝えたら、きっと同じことを思うんだろう。
尚更言える訳もない。
でもカラ松が好きなままおそ松兄さんと付き合うなんて。
「兄さん、いくら六つ子でも誰かが誰かの代わりになんてなれないよ」
「そりゃそうか。けど苦しいよなあ、俺達。誰も理解してくれないよな。寂しいよな。そうだろ?一松」
そうだった。
ずっと苦しかった、寂しかった。
「だったらさ、同じ理解されない者同士、傷を舐め合うのも有りなんじゃない?寂しさが紛れるかもよ」
そんなことしていいんだろうか。
余計に空しくなるだけなんじゃないだろうか。
「難しいこと考えるなよ。適当でいいんだって。だから、なあ、いいじゃん」
この人にいいじゃんと言われてしまえば、いいんだと思ってしまう。
だって俺はおそ松兄さんには敵わない。
「お前はカラ松を好きなままでいいよ。俺気にしないから。だってカラ松を好きな一松を俺は好きになったんだから」
「見る目ないよね兄さん、こんなゴミ好きだなんて」
「そういうとこも含めて好きなんだよ」
「…いいよ。付き合おう」
「やった!一松う好きだぞ〜!」
いきなり抱き付かれて動揺する。
「苦しいんだけど…」
「気にしない、気にしない!」
「俺は気にするんだけど…」
兄弟同士で何をやってるんだろうという罪悪感と、初めて誰かに好きだと言われて嬉しいという気持ちが片隅にあった。
これからどうなるんだろう。
てかくっついてると温かいな。
おそ松兄さんに抱き付かれながら、ぼんやりとそんなことを考えた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ