小説

□楽観主義者と恋をする
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「ねえチョロちゃん〜いつ熱海行く〜?」
「旅行行くお金なんてないでしょ」
「あるんだなあ、それが」
「えっ、まじで?」
「パチンコ勝っちゃったんだ〜!まあお前の財布から抜いた金だけど!」
「ふざけんな!」
「そんな怒んなよ〜悪かったって。その代わりおごるからさ」
「いや結局僕のお金じゃん!とりあえず返してよ!」
「えっ、やだ」
「やだじゃねえよ!返せクソ長男!」
「ちょっと〜またケンカ?聞いてたけど今日のはおそ松兄さんが悪いよ」
「なんだよトド松、シコ松の肩持つのかよ!」
「誰がシコ松だ!」
「いや普通に考えて勝手に人のお金抜く方が悪いでしょ。僕とか他の兄さん達だって困ってるしさ。今回は謝りなよおそ松兄さん」
「だってチョロ松と熱海行きたかったから…なんだよ二人して…シコ松とトッティのバカああああ」
「ちょっ!どこ行くんだよバカ長男!」
「ほっときなよチョロ松兄さん。どうせチビ太のとこだし。あれのどこが長男なんだか」

全くもってトド松の言う通りだ。
長男のくせに弟の財布から勝手にお金を抜くなんてありえない。
とっくに成人したくせにいつまでたってもバカだし働こうとしないし。
けど一番のバカが誰なのかを僕はよく知っている。

「ほら帰るよ、おそ松兄さん」

ほっておけばいいとトド松に言われたけれど、ほっておけずに足はおそ松兄さんの元へ向かっていた。

「あ〜チョロ松う。お前も呑めよ〜〜」
「呑まないから。ごめんチビ太、お勘定」

「俺さあ、ただお前とどっか行きたかったんだよ」

二人きりで歩くなんていつぶりだろう。

「だからさあ、チョロ松も喜んでくれるって、勝手に思ってた」
「だろうね。あんたバカだもんな。自分勝手だしワガママだし」
「悪かったって〜…許してよチョロ松〜…。もうしないからさ、たぶん」
「たぶんってなんだよ!」

言ったところでまた同じことをするんだろうなと呆れる。
何度も説教垂れてきたけれど、無駄だと学習した。

「さっきチビ太にお金払ったからもう旅行行けるお金なくなっちゃったなあ〜…行きたかったのに〜熱海〜…」
「飲み食いし過ぎなんだよ。そんなに熱海行きたいの?」
「だから熱海じゃなくても〜…お前とどっか行きたかったんだって」
「なんで僕と?」
「ええ〜好きだから?」
「好きって…は?」
「お前が一番好きだから」
「そりゃ、どうも…ありがとう」

お前が一番好き。
僕も同じこと思ってる、なんて言ってしまえたらどんなに楽か。
きっと意味は違う。
兄弟の中で一番好きだとこいつは言っている。
僕は恋愛的な意味で好きだと思っている。

「ねえ〜チョロちゃんは?誰が一番好き?」
「…おそ松兄さん」
「まじで!?やったあ!両想いじゃん〜!うぇ〜い!」

なぜかおそ松兄さんに抱き付かれる。
内心ではすごく動揺していたけれど、必死に平静を装った。

「ちょっと、くっつくなよ歩きづらい」
「いいじゃんかよ〜記念にちゅーしようぜ」
「なんでだよ!?」
「いつもみたいなノリじゃん、兄弟なんだからノーカンだって」
「そういうところが嫌いなんだよ!ガサツ人間が!僕の気持ちなんか知らないくせに」
「はあ?いきなり何キレてんの?冗談だよ、怒るなって」
「冗談でもそんなこと言うな!お前の中ではノーカンでもな、僕にとっては大事なファーストキスなんだよ!」
「悪かったって〜そんな怒るなよ…」
「僕にとっては、好きな人とのキスなんだからノーカンにすんなよ…」
「好きって、恋愛の意味で?」
「そうだよ!悪いか?って悪いよな!ホモだもんな!?分かってるけど、好きなんだよ!」

一番のバカは他でもない自分自身だってこと、僕は誰よりもよく知ってる。

「俺も同じ意味だって言ったらどうする?」
「え…」
「兄弟だからってことにして流そうと思ったけど、やっぱり無理だわ。両想いとか嬉しすぎて無理。ノーカンは撤回すんね」
「う、嘘…本当に…両想いってこと?」
「だね〜。だからさ、キスしようぜ!」
「待って!気持ちの整理が…墓まで持ってくか悩んでたのに…」
「これだから童貞は!このチェリー松が!」
「お前だって童貞だろうが!」
「じゃあキスしないの!?」
「今するわ!目えつむって待っとけ!」

なぜファーストキスで喧嘩腰にならなければいけないんだろう。
若干悲しさを感じながら、初めてのキスを迎えようとしていた。
…が、緊張でおそ松兄さんの肩に置いた手が震えた。
今更こんなことして良いのかという疑問が浮かぶ。
迷っている内に、いつの間にかすぐ目の前におそ松兄さんの顔があって、唇が重なっていた。
あ、こんな感じなんだ。
てか酒臭い。
どんなファーストキスだよ。

「震えてるから、俺からしちゃった。大丈夫だって、今底辺なんだからこれ以上堕ちたところでそんな変わんないって」
「僕さ、幸せだけど…父さんや母さんに顔向けできないよ…」
「それもそうだな。まあ追い出されたら二人で何とかすりゃいいって」

不安はまだあるけれど、おそ松兄さんの笑顔を見たら大したことではないように思えてきた。

「何とか…なるか」

さりげなく手をつなぐと、また嬉しそうにおそ松兄さんは笑った。

「かっこよくちゅーできるようになれよ、シコ松」
「うるせえ、お前で童貞卒業するからなボケ」
「ええ、心配〜…」

とか何とか言い合いをしていたら、前方から銭湯に向かうのであろう四人の兄弟達の姿が見えた。
繋いだ手の言い訳を考え始めていたら、おそ松兄さんが「おーいお前ら〜!」と走り始めた。
しっかりと手を繋いだまま。
きっと末弟に気持ち悪がられることだろう。
それでも、まあ、いいか。
たぶんきっと、何とかなる。


-end-
初チョロおそでした!
ケンカップルなチョロおそが好きです。
攻め三男良くないですか...!?
ありがとうございました!
201694

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