小説

□いつか君に
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俺は松野家に生まれし次男松野カラ松。
突然だがある日俺は恋に落ちた。
しかしそれは、許されざる想いだった。

「なあ、おそ松。好きな人がいるんだ」
いつもの釣り堀におそ松と二人で並ぶ。
「まじで〜!?どんな子だよ!?」
今俺の隣に座ってるお前だ、なんて言える訳もない。
「えっと…とにかくバカだ」
「バカ?へえ〜、お前も変わってんね」
「…わがままで寂しがり屋で、クズでニートで、パチンコと競馬が好きで、俺の兄貴だ」
「え?」

やってしまった。
誰かにこの話をするのは初めてで、うっかり全て話してしまった。
よりによって本人の目の前で。

「冗談だよな?」

困ったような、引いているような、苦笑いみたいな顔で、おそ松は俺の答えを待っている。

「…違う。好きだ、おそ松。また肋を折ってしまったらすまない」

返事を聞く前に、おそ松を残して釣り堀を去った。
明日からどんな顔で会えばいいんだ…。
ていうか同じ家に住んでるから、帰ってからどんな顔で会えばいいんだ…。

その後というと、おそ松は何もなかったように過ごしていた。
俺への接し方も変わらない。
ただ俺自身はどこかおそ松を避けてしまっていた。

「おそ松兄さんと何があったの?」
「フッ、別に何もないぜ?トッティ」
「ごまかしたって駄目。カラ松兄さん嘘つくの下手なんだから。喧嘩でもしたの?」
「喧嘩は、していない。俺がおそ松に言ってはいけないことを言ってしまったから、気まずいんだ」
「言ってはいけないこと、って何?」

適当なことを述べたところで自分自身ももやもやするだけだから、意を決して全て話した。

「カラ松兄さん…そっちだったんだ…」
「やっぱりイタいのか?肋折れそうか?大丈夫か?」
「肋?いや折れないけど…。それとイタいのは違うからね」

「近親相姦とか同性愛とか正直分からないけど、とりあえず返事聞いたら?あの人なりに考えてるかもしれないし」
「何も考えてないかもしれないしな」
「まあね。だから二人きりにしてあげるからもう一度おそ松兄さんと話して」
「ありがとうトッティ。けど今更おそ松に合わせる顔なんて…」
「いや毎日顔合わせてるでしょ。…カラ松兄さんだってこのままじゃ嫌でしょ?チョロ松兄さんだって心配してる」

トッティの協力の元、今部屋にはおそ松と二人きりだ。
あの日から、おそ松になんて声を掛ければいいのか分からなくなってしまった。

「暇だな〜〜。なあカラ松金持ってない?」

沈黙を破るかのようにおそ松の声が飛んでくる。
おそ松の方を見ると、手でお金のポーズをしてみせながらこっちを見ていた。

「生憎だが、ないな」
「ちぇ〜残念〜」
「どうせパチンコだろ?」
「まあね。生きがいですから」
「今俺は金を持ってなくて良かったと安堵している」
「何〜たかられるとか思ってんの?倍にして返すんだから大丈夫!」
「信用できないな」
「そんなことないって!だって俺カリスマレジェンドだぜ?」

何もなかったみたいに、今おそ松と話せている。
おそ松の中では何もなかったことになっているんだろうか。
うっかり告白してしまった訳だけれど、何もないことにされてしまうのは悲しい。

「てか最近のカラ松イタくなくない?調子悪いの?」
「誰のせいだと思ってるんだ?」

塞き止めていた言葉が口からこぼれた。

「は?俺のせい?」
「…すまない、俺は」

元はといえばあの日、おそ松の返事を聞かなければいけなかったのに。

「俺はお前が好きなんだ。…俺の、恋人になってくれないか?」

同じ顔が六つあったって、好きになったのはたった一人。

「あの日は告白するつもりなんてなかったのに、気付いたら告白していた。自分でも動揺して逃げ出してしまった。…だからおそ松の返事が聞きたい」

お前なんだ。

「ずっと考えてたよ。カラ松のこと、あの日から」

やっぱり何でもないみたいな顔のおそ松の、次の言葉を待つ。

「俺ノンケだからぶっちゃけ最初は引いたよ。けど何日か考えて、誰かにそんな風に好きって言われたの初めてだって気付いた。
悪いけどカラ松と付き合うことはできない。でも好きって言ってもらえて嬉しかった。ありがと」

振られて、思いは叶わなかったのに、久しぶりにおそ松が俺に笑顔を向けてくれて、やっぱり好きなんだと思った。

「分かった。その、ただ好きでいるのは俺の勝手か?おそ松以外の人を好きになれるとは思えない」
「別に俺がどうこう言えることじゃないし、構わねえけど」
「あ、ありがとう。ところで肋は大丈夫か?」
「肋?お前イタいの意味分かってないだろ。ってか優しいよねカラ松って」
「フッ、そうだろう?回りだしたか?恋の歯車」
「いたーい!肋折れそう!」
「い、今ので!?」

それからはおそ松を避けることはなく、オープンに口説く日々を送っている。
最初こそ他のブラザー達からボロクソに言われたが、今はもう言われることはなく、スルーされるようになった。
それはそれで悲しい気もする。

「おそ松、お前の眩しさには太陽も敵わないだろう」

もはや口説くのがあいさつとなってしまった。

「毎日毎日よく言うよね〜お前も」

いつものように無視されると思っていたけれど、反応があったので驚く。

「なんてったって俺はおそ松ボーイズだからな」
「そうなの?なんかもうお前で妥協しようかなって。このまま生きててもリア充になれない気がするし」

さすが奇跡のバカことクズ長男、発想が違う。
人としてどうかと思うが、この際だから流れに乗ろう。
俺もまた同じクズの血が流れているのだから。

「ようやくカラ松ボーイズになる日が来たのかい?待ちくたびれたぜハニー?」
「誰がハニーだよダーリン?」
「お前に決まってるだろうおそ松?」
「俺男だけど?てかお前も男だし?…まあいっか!」
「フッ、セラヴィだな」
「そのセラヴィってどういう意味?」
「これでいいのだ」
「だはは!その通り!アイス買いに行こうカラ松!もちろんお前のおごりな」
「ちゃっかりしているな、おそ松は」
「それほどでも〜。でもそういう所も好きでしょ?」
「好きだな」
「俺もお前のこと好きかも」

聞き捨てならない台詞を知らんふりするみたいに「コンビニ行こうぜ」と背を向けるおそ松。

「えっ、おそ松、今なんて?もう一度言ってくれないか?おい、おそ松」

その後何度聞いてもおそ松に知らないふりをされた。

いつか、正面からもう一度同じ言葉をもらえるように、何度でもおそ松に愛を囁こう。




-end-
初カラおそでした!
長男には塩対応な次男が好きです。
長兄松好きです。
ありがとうございました!
2016717

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