小説

□ロマンチック始めました
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「おそ松の奴、最近なんだか元気がないな」
鈍感なナルシストでも、長男の元気がないことには気付くらしい。
その原因はカラ松兄さんにあるんだけど、なんて部外者が説明する訳にもいかない。
おそ松兄さんはあからさまに元気がなかった。
いつも能天気に笑っている人間が笑わないでいると、違和感がある。
「そうなの〜?僕分からなかったよ〜。カラ松兄さん話でも聞いてあげれば〜?」
棒読みで促すと「そうだな」とカラ松兄さんは答えた。
おそ松兄さんがカラ松兄さんに片思いしていることを知ったのは2年くらい前だろうか。
珍しくベロベロに酔った兄さんが、長年の片思いを打ち明けてきた。
信じられなかったけれど泣きべそをかくので、信じる他無かった。
「それで、どうするのおそ松兄さん」
「どうもしない…カラ松に好きってこと知って欲しい、けどあいつに拒絶されたら俺、生きてけない…」
この長男は案外強くない。
弱さがある。
きっとそれは誰だって同じだ。
「カラ松兄さんが好きなのは自分自身だけだと思うよ」
「そうだよねえ。俺はカラ松になれないから、叶わないな。男だし兄弟だし叶わないのは最初から決まってるけど」
兄さんがビールの最後の一口を飲み干す。
やけ酒だなこれ。
「ねえもし振られたら慰めてね」
「分かったよホモ松兄さん」
「その呼び方やめてえ」
僕の悪ふざけに笑いながらも、やっぱりどこかおそ松兄さんは寂しそうだった。
「ほら早くおそ松兄さん探してとっとと話聞いてあげて」
ぐいぐいとカラ松兄さんの体を押しやると、「任せろトッティ」と言いながらウインクをされた。
任せて大丈夫かなあ。
おそ松兄さん慰める準備した方がいいのかな。
カラ松兄さんの背中を見送りながらぼんやりと思った。
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