幾つもの音に包まれて

□プロローグ
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冬が近づいてくると、何度も夢を見た。


「ミク…愛してるよ……」

「いやぁぁぁっ!マスター、マスターッ!!」


やつれてぼろぼろになっていた、愛しい人。あの日も冬だった。凍てつくような寒さ。悲鳴は破裂音にかき消された。


人間でなく、アンドロイドである私が夢を見るというのも一般的にはおかしな話なのだろうが、VOCALOIDはかなりの高性能である。脳の動きも皮膚の感触も、感情さえも限りなく人間に近く作られている。黙っていれば人間社会に溶け込んでも気付く者は少ないだろう。見た目の違う点といえば、常に強力な電波を発しているのと、メンテナンス、修理さえきちんとすればVOCALOID―私達には寿命がない、もしくは自由に容姿をカスタマイズできるということくらいだ。


すっかり目が覚めてしまった。まだ夜が明ける気配はない。気配すらない時間だというに、夢のせいで私の気分はすっかり沈んでしまっていた。今から朝食を作っておくのも、掃除や洗濯も億劫だ。

こういうときは¨直接会いに行く¨のが一番だと思い、私はゆっくりと起き上がる。隣のゆりかごですやすやと眠るペットを起こさぬよう、忍び足で部屋を出て、ランプに灯りをともした。目指すは、『地下室』。
 

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