Tales mix series

□Xの交錯
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幾つもの剣閃が空中を舞う。普段平穏な精霊界の植物たちは原初の三大精霊、オリジンとクロノスの対峙にざわついていた。
「クロノスーーっ!」
「ふん!」
槍とビットが火花を散らす。双方に弾き飛ばされ、ビットは消滅。リアは地面に着地した。
クロノスは変わらず空にいる。その顔はいつものごとく侮蔑のもの。リアも変わらず怒りを隠さない。
リアは槍を構え直す。怒りからか低く威圧に満ちた声がクロノスに向けられる。
「今は貴様に構っている暇はない。下らんことに時間を使わせるな」
「お前にとって下らなかろうがこれは私の使命に必要なこと。お前には消えてもらう」
クロノスが再びビットを作り出す。
話がいつまでも平行線なことに苦々しく思いながら奥歯を噛む。
今一度、火花が散るーーと思った瞬間。
「リアー!」
「ミュゼ……ミラか」
「ちっ……邪魔な」
リアの背後から聞こえた声。間違えようもなく同志であり姉妹でもあるミュゼだ。振り替えればミラもいた。
二人とは別行動を取っている最中にクロノスに襲われたリア。帰りが遅いことを心配して来てくれたのだろう。
「ごめんなさい。遅れちゃって」
「まさかここがわかるとはな。驚いたが助かった。さすがに疲れてきた」
「リアをそこまでするとはクロノスも懲りないやつだ……多少、灸を据えねばな」
「ふん。なり損ないと人間が来たところで結果は変わらん。だが……そうだな。ここで人間に肩入れする奴らを一掃するのも悪くないか」
不穏な一言。
クロノスは片手を掲げると小さな黒々とした球体を造り出した。それは徐々に巨大化する。
三人は『あれ』が何かを瞬時に察した。いち早く動いたのがミュゼだ。
「もうっ、厄介ね!」
ミュゼも似たような球体を造り上げる。二つの球が大きくなるにつれて周囲の空間が不安定になっていく。
ミラとリアは四大精霊の加護と己の力で何とか歪みに飲み込まれずにすんでいるが一瞬でも気を抜いたら簡単に狭間に落ちていくだろう。
両者、限界を感じたのか球が互いの手から離れていきーー衝突する。
『時間』と『空間』がぶつかり、混じり合うことなく、ただ対立する。ぶつかり合った箇所は既に『ここの時空間』ではない。
「……っ」
ミュゼの顔から余裕が消える。そろそろ限界なのだろう。このままではクロノスが勝ってしまい三人纏めて消滅は免れない。
(ここは賭けに出るしかない)
リアは覚悟を決め、ミュゼに話を持ちかける。
「ミュゼ! 転移空間を準備してくれ。私が隙を作る」
「隙って……そんなの、どうやって? 危険よ!」
「私は精霊の王だぞ。その程度、こなして見せよう」
根拠のない自信。しかし彼女は最後までそれで全てを乗り越えてきた。間近で見ていたミラはミュゼに言う。
「ミュゼ。リアなら大丈夫だ。それにこのままでは三人揃って消滅。それだけは避けねばならない事態だ」
「さすがミラだ。そういうことだ。頼んだぞ、ミュゼ」
二人の言葉にミュゼは何も言えなかった。
(ミラはリアを信じた。私はーー信じる以外ないじゃない)
「わかったわ。でも、一瞬でできる空間は不安定だから。絶対に四大精霊の加護を。それだけお願い」
「了解した。三つ数えるぞ」
「ええ」
ーー三。
リアが陣を描く。それは無属性のもの。触れたものを無に帰す精霊術。それはもう特大を用意する。
ーー二。
クロノスの勢いが強まる。ミュゼは空間を切り裂くためにリアに託した。ミラはいつでも飛び込めるようにしておく。
ーー一。
リアが精霊術を放つ。
ミュゼの術が消える。
リアとクロノスがぶつかるまで瞬きしか無い。
ーー零。
触れあった瞬間に大精霊の力を込めたそれはその場の空間を乱す。クロノスもさすがにそれは耐えきれずに自衛に徹した。
クロノスが注意を反らした隙にミュゼが空間を切り裂く。確かにいつもより不安定だ。
「リア! 上手くいった!」
「よし。じゃれあいはここまでだな、クロノスよ」
ミラとミュゼは既に空間内にいる。あとはリアが入ってミュゼが入り口を閉じるだけ。
「おのれ!」
リアへの執着心が成し遂げた技なのかクロノスは見えないなか気配のみで消え行こうとする彼女たちにビットを放った。
それは図らずも拘り続けるリアの背中に命中した。
「っ……ぐっふたりは、先に……」
「リア!」
「しっかりしろ! ここで気を失うな!」
ミラとミュゼが必死に呼び掛ける。
強気に耐えて見せようとするが渾身の一撃を無防備だった背中に当たったのは大変な痛手だ。すぐに気を失うことはなかったがもはや目の前にいるはずの二人の姿がよく見えていない。
気を失った彼女の体はバランスを崩して狭間に落ちていく。
「リアーーっ!!」
ミラが手を伸ばす。けれどもそれは一瞬の触れ合うことなく空を掴む。
掴めなかった手をミラは唇を噛みながら悔しげに握りしめる。ミラの肩に手を置き、励ますのは姉のミュゼ。
姉がどのような存在かはわからないが悲しそうで悔しそうなミラの姿をミュゼは見たくなかった。
「……加護があるから消滅はしないわ。ただ別の時空に落ちていったから探さないとね」
「ああ……リアもこちらに戻るようにするだろう。急がねば」
「ええ。それでこそ私の妹たちよ」
二人はリアの帰りを迎える準備をするために足早に移動する。
無事であることをただ祈って。


リアがどこへ落ちるのかはだれも知らない。
 

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