現パロ小十郎

□土曜の朝
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「小十郎様? 朝ご飯はどうされますか?」

「んー…」

「まだ寝ていますか?」

「んー…」

寝室のカーテンから差し込む光を感じながらも重い瞼を上げる気にはならず、問いかけてくる愛らしい声を聞きながら曖昧な返事を繰り返す。

今日は土曜日だ。
以前の俺ならば土日でも構わず残った仕事を片付ける為に出社していたかも知れないが、今はそうでは無い。

「弥彦…」

腕の中にいる華奢な身体を再度抱きしめ直すと、まるで俺専用に誂えたかのようにピッタリと腕の中に収まった。

「あ…っ…」

甘く優しい匂いに誘われて顔を埋めると丁度首筋だったらしく、唇に触れる肌理の細かい素肌とそこからふわりと香る甘い芳香に心が解けるような安心感を覚えた。

「…もう少し…このまま……」
「……もう…」

顔こそ見えないものの、頬を赤く染めて恥ずかしげに視線を伏せるその表情が瞼の裏にしっかりと浮かぶ。

金曜の夜はいつの間にか弥彦が泊まりに来るのが当たり前になっていた。
合鍵を渡し、俺よりも先に帰れる時は食事を作って待っていてくれる。
独り身が長かった為か、玄関のドアを開けると部屋に明かりが灯り食欲をそそる良い匂いが漂うその光景がどこかくすぐったく感じてしまう。

「お帰りなさい」と、笑顔で俺を出迎える弥彦を見ればこの1週間の疲れなど全て吹き飛ぶ程に癒された。

こんなにも可愛いと思う女性(ひと)に、生まれて初めて出会った。
ずっと腕に抱いて離したくないと思える程、大切で愛しく思えるのは他の誰でもない弥彦だからだろう。

それなりに歳を重ねて来た中で、こうして食事を作って帰りを待っていてくれた相手が居なかった訳では無い。
しかし、勝手な事にどの相手も俺から思いを寄せた事はただの一度も無く、求められれば拒むこと無く受け入れていたと言う具合だった。
この歳で弥彦と出会い、初めて焦がれると言う感情を知った。

「…いい匂い…」
「…ふふ…くすぐったいです…」

弥彦の首筋に顔を埋めたまま甘えるように擦り寄るとくしゃくしゃと細い指が俺の髪を撫でてくれる。
こんな姿を誰にも見せられないな…と思う反面、誰かに甘えられると言う事がこんなにも幸せな事なのだと思えば胸がいっぱいになるようなそんな気がした。

一回り以上も若い、政宗様よりも年下の恋人。
まさか自分がそんなに若い女性に思いを寄せる日が来るとは思っても見なかった。

しかし、若いかと思えば妙にしっかりしていたり、やけに芯が強かったり、それでいて何処か危なかっかしいギャップにいつの間にか俺の方が絆されてしまっていた。

((…本当に、一瞬たりとも手放したく無いな…))

自分がここまで独占欲が強いとは思っても見なかったが、出来ることなら本当に四六時中、傍に置いて置きたいと思ってしまう。

しかし、流石に自分が社長秘書にと抜擢した社員と恋愛関係になってしまった事を周囲に知られる訳には行かない。
他の社員に目撃される可能性の高い平日に二人きりで会うのを避けるとなると自然と弥彦が泊まりに来るのは金曜の夜と土曜日のみとなっていた。


「んっ…こ、小十郎様っ…!」
「んー…」

丸々5日間も可愛い恋人に触れるのを我慢すれば、金曜の夜にする事など決まっている。
昨晩も互いの限界まで求め合い、愛し合った。
その名残で弥彦は今、俺のシャツだけを着てこの腕の中にいる。
下着類も身に付けて居ない為、薄い布越しに弥彦の体温も、華奢な身体付きもダイレクトに俺に伝わってくる。

「弥彦の肌は気持ちいいな…」
「んっ…やっ…だめっ…」

するすると太ももをなぞって、シャツの中に手を差し込めばきめ細かく柔らかな肌が掌に吸い付いて来た。
その感触を楽しむように手を滑らせれば、昨晩も聞いた甘い声が弥彦の唇から零れだす。

「ぁ…っ…小十郎様っ…まだ明るいのにっ…」
「うん。 明るい中で弥彦を見るのも良いね」
「なっ…! 何をっ…ぁっ…!」
「…ん…可愛い…」
「んっ…! 」

太股から腰、クビレ、背中と順に手を滑らせ、最後にマシュマロのような胸の膨らみに手を伸ばす。
男には無いこの柔らかさが愛おしくて、触れる度いつも胸が締め付けられるような、何処か頼りなげな気持ちになる。
今まで女性に困った事は一切無いのだが…、弥彦に関しては何故か余裕が無い所か、自分でも驚く初めての感情が溢れ出すのだから、どうしようもない。

「あ…っ…小十郎様っ…だ…め…」
「でも、もうここ…尖ってる…」
「ぁんっ…!」

俺の腕の中で与えられる愛撫に身をよじる弥彦を抱き締めて、その柔らかな肌と頂を指先で転がすように撫でればたちまち弥彦の身体に熱が灯る。

俺が初めての相手だと言うのに、弥彦の身体は驚く程に敏感で、いじらしい程良く反応する。

「…可愛い…弥彦…シてもいい…?」
「んっ…ぁ…っ…聞かなっ…で…」

胸に手を這わせただけで、ぴくぴくと身体を跳ねさせるその様子が益々俺を煽る。


いつの間にか眠気は飛び、腕の中で可愛らしく鳴く恋人に思考の全てを支配されていた。

今日は土曜日。
一日中ベッドの中で愛しい人を抱きしめているのだって悪くない。


おわり





起きられないんじゃない。起きないんだ…!
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