伊賀の忍
□Stand by you
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「───と、言う事で、よろしくお願いします」
「おう! まかせとけ!」
「俺が才蔵を呼び出すんだな……!」
「幸村様ー。本当に大丈夫ですか? 顔に出ちゃいそうですよ」
「な、な、何を言う。武士たるもの常に冷静沈着が基本だ!」
「本当ですかー?」
戦も無く平和が続く上田城の一室で、私と佐助くん、そして幸村様は今、ある作戦会議をしている。
作戦会議と言うには些か賑やかな気もするそれは、私を中心に話しが進み、丁度それなりの段取りを確認しあった所だった。
「当日まで先生に気づかれないように、気をつけて下さいよ!」
「そういうお前も、部屋の飾り付けなんて出来るのか」
「任せてください! 先生の部屋を盛大に飾り付けて見せますから!」
「……ふふ。 お願いしますね、幸村様、佐助くん」
「ああ! 一年に一度の誕生日位驚かせてやらないとな!」
そう、この賑やかな作戦会議は、あと五日に迫った才蔵さんのお誕生日を祝う会の計画を立てるものだ。
私が料理を作って
佐助くんがお部屋の飾り付けと、城内の皆さんの招集
そして幸村様に才蔵さんの足止めと、部屋まで呼び出す役割を担ってもらう事になっている。
「先生の驚く顔見られるかなー?」
「こういう時ぐらい、あいつを思いっきり驚かせてやらないとな!」
私が持ちかけた内緒のお誕生日会の計画に佐助くんも幸村様も大いに乗り気でいてくれる事が素直に嬉しい。
才蔵さんは秘密に計画された誕生日会に驚いてくれるだろうか。
普段あまり目にしない才蔵さんの驚いた顔を想像すると胸が擽ったくなった。
「じゃあ、詳しい段取りについて決めましょう」
「おう!」
「才蔵の事なら俺に任せておけ! 」
「そんな事言って幸村様、いつも先生に出し抜かれてるじゃないですかー!」
「う、うるさいぞ佐助っ!」
やんやと騒ぎながらも才蔵さんの誕生日会の段取りが決まっていく。
二人とも、余程才蔵さんを驚かせる事が嬉しいのか、あれもこれもとどんどん案が出る。
その意見を取り纏めながら、当日の進行を決めて行くと思った以上に早く作戦は練上がりそうだった。
((今日、才蔵さんが出かけて居てくれて良かった……!))
きっと勘のいい才蔵さんの事だ、私達がこそこそとこうして集まっていれば直ぐに気付かれてしまうだろう。
しかし、運良く今日才蔵さんは城下へ筆を買いに行くと言って朝から出掛けている為、私達は安心して作戦会議を続ける事が出来ていた。
((これで、才蔵さんのお誕生日は大丈夫そう!))
しかし、そう思ったのも束の間。
私の安心は直ぐに崩れる事となった。
「お、お、お、お、おう! さ、才蔵!」
「せ、せ、先生! お、おかっ……お帰りなさいっ!」
二人の精一杯の演技に、私は思わずあんぐりと口を開けるしか無い。
((ふ、二人とも顔が引き攣ってるっ……!))
才蔵さんが帰ってきてからと言うもの二人の行動がかなりぎこちない。
明らかに何かを隠していますといった様子は、才蔵さんで無くても気が付きそうな程だ。
常に真っ直ぐで純朴な幸村様と、忍びと言えどもまだまだ純真な佐助くんに内緒の作戦は荷が重すぎたのだろうか。
「さ、才蔵っ! 」
「何」
「お、お、男同士、たまには鍛錬をしないか! い、五日後の朝なんてどうだ! 」
「そ! そうですよ、先生もたまには鍛錬しましょうヨー! 五日後に!」
明らかに作った笑みを浮かべながら、買い物から帰ってきたばかりの才蔵さん周りに寄って集って話しかける幸村様と佐助くん。
才蔵さんはと言えば、明らかに怪訝そうな顔をしながら二人を見ている。
「……はぁ。 五日後の約束なんて俺がすると思ってるわけ」
「……うっ……!」
「ううっ……!」
((……だ……大丈夫かな……))
明らかに様子が可笑しい幸村様と佐助くんに才蔵さんが気付かない筈が無い気もするけれど、それでも二人は精一杯の平然さを装って才蔵さんに話しかけているようだった。
「せ、先生! じゃ、じゃあっ……!」
「才蔵っ!!ならばこれから毎日鍛錬をすると言うのはどうだっ!」
「無理」
((……な、なんか……前途多難な予感がする……))
そんなこんなで始まった才蔵さんの誕生日会の作戦だったけれど、その時まだ私達はとてつもなく重要な事を忘れていたのに気付いてはいなかった。
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