現パロ小十郎

□金曜日の恋人
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きっと、この二人の言葉に嘘は無い。

真面目と誠実さだけが取り柄のような田中と、純粋さを絵に描いたような弥彦。

この二人の間に、“万が一”と言う言葉はきっと存在しない。



資料作成のために、馬鹿正直に田中の帰りを待ち続けて居た弥彦。
自分のミスで弥彦に残業をさせることになってしまった田中。
この二人の事だ、力を合わせて今の今まで資料作成をしていたという事なのだろう。



ちらりと盗み見た弥彦の表情にも、後ろめたさなどは感じられない。

しかし、論理的思考と感情は対極の場所にあるものだ。
頭で状況を理解したとしても、はいそうですかと気持ちが納得する訳もない。



どうにか、この瞬間だけは冷静にならねばと自分に言い聞かせ、ぐしゃぐしゃと髪を掻き上げて、息を吐く。




「はぁ…話はわかった。だが苗字は、もう終電はないんじゃないか?」

「あ、あの…最寄り駅まではないですけど…少し歩けば…」

「ああ…それはわかるが、こんな時間からは危ないだろう……送るから、乗りなさい」

「え…」




まさか、この時間に一人で歩いて帰ると言い出した弥彦に、怒りを通り越した呆れさえも覚える。



連絡もつかない。

家にも、会社にもいない。

その上、ようやく見つけたと思えば別の男と二人で歩いている。

話しを聞けば、二人きりで残業をしていたと言う。




この状況でまだ、一緒にいる田中に気を使っている様子を見れば、胸の内は最早焼け焦げるのではないかと言うほどに燃えたぎっていた。




その後、どんな会話をしたのかすらよく覚えていない。
半ば強引に弥彦を車に乗せ、車を出した。
先ほどまで、空だった助手席には小さくなった弥彦が俺の様子を窺うようにこちらを見上げている。



「あの……小十郎様……」

「……。」

「すみませんでした……」

「……。」



おずおずと、不安げに俺を見上げて謝罪の言葉を口にする弥彦。
しかし、今の俺にはその言葉を受け入れて素直に許すという心の余裕は持ち合わせていなかった。



「あの……」

「電話」

「え……」

「電話、何回もした」

「あ……、すみません。電池が切れてしまっていて……」

「そう」

「……はい……」



俺の返答に、弥彦がシュンとするのが分かる。
普段ならばすぐに許してしまうようなその頼りなげな仕草も今日ばかりは俺の感情を逆撫でする材料になっていた。

恨みがましいとは分かっているものの、自分の気持ちも知らずに田中と二人きりになっていた弥彦が今はひどく憎い。
俺が血相を変えて手あたり次第にその姿を探し求めていた間、弥彦は田中と二人きりで呑気に仕事をしていたと言う。



((資料がないなら、俺に一言相談すればいいだけだろう))



資料室の鍵がないなら、言えばいくらでも過去のデータを提供する事は出来る。
もし手持ちのデータで足りないとしても、情報不足を補う術なら俺がいくらでも用意してやれると言うのに。

イライラした気持ちが収まらず、弥彦に掛ける言葉が見つからない。
無言のまま運転し、滑るようにマンションの地下駐車場に駐車した。



「あのっ……小十郎様……あっ!」



何か言いたげな弥彦の手をやや乱暴に掴むと、そのままエレベータに乗り込み、階数ボタンを押した。




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