現パロ小十郎
□会社がピンチB
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人数分のお茶を入れて社長室に戻ると、既に会談は本題に入っているようで、先ほどまでの気安い雰囲気が嘘のように、重く緊迫した空気が鋭く肌に刺さってきた。
「…はっ 下らねえな」
「…っ…!」
「こんな資料説明された所で、俺はこれ以上ここの株を買うなんざ大博打打つつもりはねえよ。それじゃなくても、値下がりする一方で大損してるんだからな」
バサッと分厚い資料をテーブルに投げ出す武田様に、一人の重役の方が青ざめた顔で息を飲んだ。
きっと奥州グループの将来性や今後の事業改革について長々と説明をしていたのだ。
「…。」
しかし、小手先だけの説明で納得する相手では無いと言う事は、私以上にその場に対峙する全員が分かっている事なのだろう。
そっと、応接セットに腰掛ける皆さんの顔を盗み見れば、政宗様も小十郎様も一様に硬い表情のまま、何か考え込んで居るようだった。
その向かい側に不敵な笑みを浮かべた武田様と、最初に見た時から一つも表情を変えることの無い山本様が腰掛けている。
((せめてお茶を飲んで雰囲気を変えてもらわなきゃ))
交渉の場で私が出来る事なんて、悲しい位に何も無い。
だからこそ今私に出来るのは、どんな相手であっても精一杯のおもてなしをする事だけだった。
「失礼致します。温かいお茶をお持ちしました。」
お待ち頂いている間に出した冷めたお茶を戻し、淹れたての熱いお茶を武田様の前にお出しする。
その時だった。
「まあ、この嬢ちゃんを俺に寄越すんなら、考えてやっても良いけどな」
「えっ…!」
突然、武田様の大きな手がお茶を差し出した私の手首を掴みあげた。
「武田様! 何を…!!」
そんな声が背中に聞こえ、一瞬何が起こったのか理解が出来ないまま、私の身体は武田様の膝の上へと抱き上げられてしまっていたのだった。
「きゃっ…!」
体勢が崩れ、慌ててミモレ丈のスカートの裾を抑える。
「なっ…!何を…!!」
余りの出来事に思わず武田様を睨み付け、抗議の声を上げようとしたが、其処でハッと思いとどまった。
あくまでも目の間に居るのは、会社の行く末を握る大株主である。
唇を噛んでグッとそれを堪えると、そんな私の様子を見た武田様が、さも可笑しそうに笑い声を上げた。
「可愛い顔して気も強いのか、益々気に入った。 さっきも言ったが俺の女になれ。そうすればここの株の5%でも10%でも買い取ってやる」
「っ…!! 」
武田様の言葉に驚いたのは、私以上にその場に居合わせた重役方だった。
どよめく声が聞こえ、私へと視線が集中するのが分かった。
((…何でこんな事に…!))
武田様以外、その場に居る誰もが今起こっている状況を理解出来ずに困惑の表情を浮かべていた。
「…武田様…どういうおつもりですか。」
その時、小十郎様の鋭い視線と声が静かに武田様へと向けられた。
「なあに、気に入ったってだけだ。 こんな上玉中々いねえからな」
そう言って、武田様は尊大な態度と不遜な笑みを崩すこと無くそう言い切ると、わざと見せつけるように私の腰を抱き寄せた。
「つまらねえ事業拡大の話なんかよりも、この女の方がよっぽど金を掛ける価値は有りそうだからな」
身体を密着させるかのように、武田様の腕が私を捉えて離さない。
初対面で、しかもまるで熊と対峙しているのかと思う程の威圧感を持った男性に二度も腕に抱き込まれる事になるなんて…。
羞恥心やときめきと言った感情よりも、不安や戸惑い
そして、まるで物のように扱われる事への悲憤が胸の中に込み上げて来た。
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