現パロ小十郎

□会社がピンチB
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「に、しても今回はあのタヌキ野郎に一杯食わされたみてえだな」

「タヌキですか、武田様のお言葉の選び方も相変わらずようですね」

カラッと冗談交じりに笑う武田様に対して、小十郎様も苦笑しながらソファに腰掛ける。

来社記録も有った為お知り合いなのだろうとは思って居たけれど、政宗様、小十郎様と武田様の間に流れる空気は何処か気安く見え、ピリついた商談の空気は全く感じられなかった。

((…破天荒な方って仰っていたし、さっきのは冗談なのかな…))

先程腕に捕えられた事を思い出し、カッと頬が熱くなる。
冗談にしては行き過ぎている、と言うか下手すればセクハラの域だとは思うけれど、今は会社の一大事。
こんな事で大騒ぎをしている場合では無いと気を取り直し、私は人数分のお茶を入れるために一旦その場を離れた。


「ちょっとぉ〜! 弥彦!」

「あ、ザビちゃん。どうしたの?!」

給湯室に向かうと、ザビちゃんが頬を高潮させて追い掛けて来た。
その様子に何事かと思って目をぱちくりさせて見上げれば、私とは反対にザビちゃんは目をキラキラ輝かせながらくねくねと品を作って見せた。

「あの武田様って方! んもぉ〜!素敵じゃない? 小十郎様も大人の色気たっぷりだけど、武田様のあのワイルドな雰囲気!! ああ〜ん!!堪らないわ〜!!」

「…そ…そうかな…?」

余りにも興奮した様子のザビちゃんに、思わず苦笑いを返す。
先ほど武田様にされた事を思い返せば確かにワイルドだとは思うけれど、それ以上に初対面の異性にあんな事をする人という苦手意識が付いてしまうのを止められそうに無かった。

「あら! 弥彦にはあのキケンな男の色気が分からないのかしら!?」

「…え…あ…いや…」

お湯を沸かす私の傍らで、鼻息荒く武田様のワイルドな魅力を語り出すザビちゃん。
その話しを聞きながらも、どうしても先ほど耳元で囁かれた言葉が頭から離れずにいた。

『俺の女になれ。そうすればこの会社を救ってやる』

抱き寄せられた腕の力は強く、抗う事は出来そうに無かった。
あんな大人の男性に抱き締められた事なんて、学生時代の幼い恋愛しか経験した事の無い私にとっては余りにも現実離れし過ぎて居て、それが本気なのか冗談なのかの区別など着きそうに無かった。

とにかく落ち着かなければ…そう思ってザビちゃんには気付かれないように深呼吸を繰り返していると

「…ちょっと! 弥彦! 聞いてるのかしら!?」

ザビちゃんが、ジトッと目を細めて私を見つめていた。

「…あっ! ご、ごめんっ…!」

「どうしたのよ、ボーッとしちゃって。」

「…ちょ…ちょっと会談の事が気になって…」

流石にザビちゃんお気に入りの武田様に、会っていきなり抱き締められたなどと言えるはずも無く、咄嗟に思いついた言い訳を口にして何とか誤魔化した。

「うーん、それはそうよね。武田様が協力してくれるかどうかが運命の分かれ道ですもんね」

「…うん…。」


資料を調べているうちに分かった事だけれど、武田様は奥州グループの株を10%程所有している大口株主だった。

今回の騒動の中心に居る徳川コンツェルンも元々は奥州グループの株を10%程所有していた大口株主だったが、今や造反した佐竹様や蘆名様と更にそれに続いた先代からの株主を巻き込んで、実質43%もの株を持ち合わせている。

それに対して、元は60%以上あった奥州グループ側の株は、造反により内部分裂を起した形になり、現在味方についているのは実質35%程しかない。
小口の株主をどうにか味方に付けることに成功しても、せいぜい40%が限界と言う明らかな劣勢だった。

そんな中でも、武田様がこちらに付いて下されば奥州側の株は徳川の所有する株数を上回り、経営権を死守する事が出来る、と言う算段だった。

しかし、先程あんな事をした武田様が、一筋縄で行かない人だと言う事位私にも分かった。

((…なんだか…不安だな…))

蘆名様と佐竹様が造反した直後から、徳川コンツェルンの株が大幅に値上がりし、それに反比例するように 奥州グループの株は下落の一途を辿っていた。
徳川コンツェルンが奥州を乗っ取ると言う噂は経済界ではもう知らない人が居ないほどに噂になって居たのだ。

そんな危機的状況にある会社を武田様が利益度外視で救う事など有り得るのだろうか…。


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